アルフレッサさんが持ってきてくれる小冊子は、何故か、いつも目を通してしまう。他の、、は、、、、、ゴメン。
コレ、仕事の片手間に読むのにちょうどいいボリュームなのかもしれない。
今回、No.99 2009.5-1 号の村田病院 薬局長 久岡清子氏のコラムに、『・・・・・私はギリシャ神話のお姫様のように種分けしながら持参薬の報告書を作成しました。・・・・・』とあるのを、見逃さなかった。
この時、ギリシャ神話通(自称)である私の“脳”はフル回転したのだ。
3秒後、「ああっ、プシュケの事だな!ふふふ」と。
というわけで、何のことか、わからない人に解説をしておきましょう。
【エロスとプシュケ】のエピソードは、2世紀中頃にローマの詩人によって付け加えられた物語だといわれている。。。。。
ある国の3人の王女はいずれも美しく、中でも末のプシュケは、美しさは美の女神アフロディテへ捧げられるべき人々の敬意をも集めてしまうほどであった。人間の女に負けることなど思いもよらなかったアフロディテは、息子エロスにその愛の弓矢を使ってプシュケに恐ろしい恋、すなわち「驢馬のような醜い男をプシケが愛するようにしむけろ」と命じる。悪戯好きのこの愛の神は喜んで母の命令に従うが、誤って自分をも傷つけプシュケへの愛の虜となってしまう。(ちなみに、エロスってのは、英語名キューピッドのことだ)
「んじゃこの金の矢を醜男にっと、あ痛てっ!いけねぇ弓刺さっ・・・なんと美しい女性!」
と、ちょっと間抜けなエロスなのであった。
この後、エロスはプシュケを自分の神殿に連れ込んで・・・・・となるのだが、神と人間の間には犯してはいけないしきたりがある為、エロスは自分が神であることを悟られないように夜這い同然の行動をとる。(絵は、夜這いの情事の後、逃げるようにプシュケの元を去るエロス。フランソワ=エドゥアール・ピコ)
この後、先に嫁いでいた二人の姉は、自分達より美しい妹が、一体どんな男と一緒になったのか知りたくて、その神殿まで、足を運ぶのだが・・・・・その男が絶世の美男子である事に嫉妬心がメラメラと沸き起こり、妹に入れ知恵をするのだ。
実は、美しすぎて貰い手がなかったプシュケの将来について、父親である王がアポロンの信託を仰いだところ、「彼女は人でないモノと結婚する運命にあるから」と言われ、泣く泣く神託にあった場所に花嫁衣装のプシュケを連れて行ったのだ。
そこは目も眩むような崖で、プシュケは信託を悲観して飛び降りたのだが、神々の一人である西風のゼピュロスがプシュケをエロスの神殿に運んでくれたのだ。そこに、夜になると暗闇に隠れ、姿を隠したエロスが通ってきて、、、、と、思いもよらぬ展開にプシュケも怖いながらに何となく幸せを感じることになった。
で、この辺りで自分のことを心配してくれていると思っていた(実はやっかみと興味しんしんだった)姉達を神殿に呼んだら、、、、、って。
姉達の入れ知恵は、「姿を見せないのには、何か悪い秘密がある」「お前は、騙されている」「姿を見なきゃいけないよ」と。
プシュケは姉達の口車に乗ってしまい、情事の後、寝入っているエロスの姿を蝋燭の炎に照らして見てしまうのだ。そのエロスのあまりの美しさに思わず手が震え、溶けた蝋がエロスにポタリ・・・・・。
目覚めたエロスは悲しい顔をし、プシュケの元を去る。
ちなみに、この憎たらしい姉達は、プシュケと別れたエロスの妻になろうと、同じ崖から飛び降りるのだが、今度は西風のゼピュロスはその体を受け止めてはくれず、転落死・・・。
さて、途方にくれるプシュケは、世界中をさまよいエロスを探し続けたが、見つけることが出来ず、ついにはアフロディテをたずねた。しかしアフロディテにとっては、プシュケの美貌とその虜になってしまった自分の息子のことで、とても協力する気にはなれなかったのだが意地悪心がもたげてきて・・・・・。
そこでアフロディテは試練と称してプシュケをいびり始めたのだ。完遂したら逢わせてあげる・・・と。
試練は、、、
1.入り混じった穀物の山を1日で種類別に分ける
2.凶暴な羊から金色の毛皮を刈り取る
3.生命の泉から水を汲む
であった。
実は、この時、陰なから(アフロディテに見つかるとやばい)プシュケを助けるものがあったのだが、それが、蟻、葦、鷲だ。
アリ=穀物を分けた
アシ=強暴な羊の毛を絡ませることで集めた
ワシ=竜の居る川から水をすくった
そして最後は、冥界の王妃ペルセポネから“美の箱”をもらってくるというものだった。
生きたまま冥界へ赴くというのも、生きた人間には助けなしには出来ないわけだが、ここでもプシュケを慕うものに助けられ、どうにかその試練を達成する。
その帰り道、プシュケは湖に映った自分のやつれた顔に驚き、その“美の箱”とやらを、『みちゃダメだよ』って言われてんだからやめときゃいいのに好奇心も手伝って開けてしまい、とたんに眠ってしまう。それは実は“眠りの箱”だったのだ。
そこへ偶然通りかかったエロスは、健気で純粋な彼女のことを見て愛おしく思い、彼女をオリュンポスへ連れて行き、ゼウスにアフロディテとの仲裁を求めた。さすがのアフロディテもプシュケの一途さを認め、2人は正式に結婚することを許された。プシュケは神の酒ネクタルを飲んで不死身になり、エロスと一生幸せに暮らしたという。(プシュケとエロスといえばこの絵 フランソワ・ジェラール)
薬局長 久岡清子氏の『私はギリシャ神話のお姫様のように種分けしながら』というのは、アフロディテのプシュケに対する1番目の試練の事なのだ。
氏は、患者さんが持参した“入り混じった穀物の山”のような薬をより分けていたのだ。。。。(助けてくれた“アリ”さんはいたの?)
なんとも、他人事ではないシチュエーションにシンパシーを感じてしまい・・・と。
で、ギリシャ神話のプシュケは、アフロディテにさんざん虐められたが、最後にはエロスの愛を勝ち取って、正妻として迎えられ幸せになった・・・・・・わけだが、久岡清子氏は、さんざんアフロディテ(薬を正確に飲めない患者)に虐められ、この後、どうなるのだろうか??
正確に飲めるように、さんざん知恵を絞り、手を尽くしたのに、飲めてない・・・・ならば、入院中に飲めるように教育しちゃえ・・・と、氏は「エリート患者養成講座」なるコラムで、自身の奮闘記を執筆しているのだが、続きが楽しみである。。。。
エロスの愛を勝ち取って、幸せになれるのだろうか??
※【エロスとプシュケ】のエピソードは、うろ覚えなのと思い込みで、自分でストーリーを作ってしまったところもあるのかもしれない。後で、ネットで調べてみたら、なんか微妙に違う・・・・・ココなどのほうが、詳しくて正確だと思う。
リンクが切れるかもしれないので、引用しておきます。
エロスとプシュケある王様には、三人の娘がありました。上のふたりの娘もきれいでしたが、末娘のプシュケの美しさは、なんといいあらわしてよいかわからないほど。たいへんな評判でしたから、となり国の人々までが、その姿を見ようと、大勢おしかけてくるほどです。ちょうど美の神アプロディーテでも拝むように、この娘を崇拝しました。
しかし、人間の娘が、まるで神様のように崇められているのを見て、美の神アプロディーテは、たいそう腹をたてました。
「わたくしが人間のむすめに負けてよいものか。それでは、あのゼウスの羊飼い(パリスの事)が、わたしを一番美しいときめたことが、なんにもならなくなる。しかし、あんな娘に、わたしの名誉をうばわせはしない。今に、あの娘に後悔させてやる。」
そこでアプロディテは、息子のエロスをよびました。そして、色々な不平をいって聞かせたのです。
「いい子だから、あの思いあがった女を罰しておやり。おかあさんの面目を、まるつぶれにしたのだから。」
エロスは、母親の言いつけ通り、急いでプシュケの部屋へ出かけてゆきました。プシュケはちょうど眠っているところ。その姿を見ると、エロスも、ちょっと可愛そうになりましたが、とにかく、不運になる水を二、三滴プシュケの上にたらしました。そのとき、プシュケは目をさまし、エロスのほうを見ました。(けれど、エロスの姿は見えないようになっていました)エロスは、はっとして、あわてたはずみに、自分の矢で傷をしてしまいます。すると急に、自分のしたことを取り消したくてたまらなくなってしまい、今度はプシュケに、喜びをもたらす水をそそぎかけたのでした。それからというもの、プシュケはアプロディーテの機嫌を損じてしまったので、いくら美しくても、ちっとも幸せになれませんでした。人々はプシュケの姿に見とれ、その美しさをほめましたが、それにもかかわらず、だれひとりプシュケに結婚を申し込む人はいません。ふたりの姉たちは、とっくに、りっぱな王子と結婚していましたが、プシュケだけは、ひとり淋しく自分の部屋にすわって、みんなが自分の美しさを、ほめてはくれるものの、だれも自分を愛してはくれないことを、悲しく思っていました。
プシュケの両親は、これは神々のお怒りにふれたのかも知れないと思い、信託をうかがいました。
「あの娘は、人間の花嫁にはならぬ運命をもっている。山の頂へつれてゆき、捧げるのだ。」
おそろしい信託を聞いて、人々はみんなびっくしてしました。とくに両親は悲しみました。けれどプシュケは言いました。「おとうさまも、おかあさまも、お悲しみにならないで。わたしは運命にしたがいましょう。不幸な運命が待っているという、その山の上に連れていってくださいませ。」
そこで、花嫁の支度をととのえ、プシュケをだしてやることになったのです。プシュケは、泣き悲しむ人々に見送られて、両親たちといっしょに、山へ登りました。人々は、その山のてっぺんに、プシュケをただひとり残して悲しい思いで家に帰ってゆきました。プシュケは恐ろしさに胸をドキドキさせながら、山の上に立っていました。すると、ゼピュロス(西風の神)がプシュケをそっと抱きあげ、ふわりふわりと運んでいって、花の咲いている谷間へおろしてくれました。そばには、りっぱな宮殿がありました。プシュケは御殿の美しさに心をひかれて、思いきってはいって見ました。目にふれるものは、何もかも、おどろくばかりのみごとなものです。壁には、狩りの獲物だの、田舎の景色などの絵が飾られていて、見る人の目を楽しませてくれました。
そんなものに見とれていると、人の姿は見えないのに、どこからともなく声が聞こえて、こう言いました。
「女王さま、ここにある物は、すべてあなた様の物でございます。いま声をお聞きのわたくしどもは、あなた様の召使いでございます。なんなりと仰せください。ご用をいたしますので。」
プシュケは、ここで暮らしはじめたのでした。
ですが、プシュケは、自分の夫の姿を、まだ一度も見たことがありませんでした。その人は、夜だけいて、夜の明けないうちにいってしまうのです。けれど、優しい言葉で、いたわってくれるので、プシュケも慕わしく思っていました。プシュケはときどき、どうか帰らないで、お姿を見せくださいと頼んでみました。けれど、いつも夫は言うのです。
「なぜ、わたしを見たいのだ。わたしの愛情に、疑いでもあるのか。それとも、なにか満足しないことでもあるのか。おまえがわたしを見たら、たぶんわたしを恐れたり、崇拝したりするだろうが、わたしはおまえに愛してもらいたいのだ。わたしは神としてあがめられるより、人間として愛してもらいたいのだ。」
こういって聞かせらましたので、しばらくはプシュケも心がしずまりました。そして、楽しく過ごしていました。けれど、自分がこうしていることを、おとうさん、おかあさんはご存じないのだ、などど考え始めました。そう思うと、気が重くなってしまいます。
そこである晩、プシュケは夫に、姉たちを宮殿によぶことをお願いしたのでした。プシュケは西風の神に、姉たちを、プシュケのいる谷に連れてきてもらいました。姉たちとプシュケは、たがいに抱きあって喜びました。
「さあ、ごいっしょに家へまいりましょう。いろいろ、ごちそういたしますよ。」
そう言って、プシュケは姉さんたちを、自分の御殿へつれてゆきました。そこで、沢山の声の召使いに案内され、ふたりの姉さんたちは、おふろに入ったり、ごちそうを食べたり、宝物を見せてもらったりしました。この天国ような暮らしを見て、姉さんたちは、妹が自分たちより贅沢な、りっぱな暮らしをしていることを、ねたましく思ったのです。
ふたりは、いろんなことをたずねました。夫がどんな人か、ということもたずねました。プシュケは、夫は美しい、若い人で、たいてい昼間は山へ狩りにいっている、と答えましたが、お姉さんたちは、それだけの答えでは納得しないで、プシュケから、まだ夫の姿を見たことがないことを白状させたのです。お姉さんたちは、それを知ると
「あなたの夫は、大ヘビに違いない。おなたをしばらく美味しいもので養っておいてから、いずれ食べてしまうつもりよ。だから、こうなさい。明かりとナイフを用意して隠しておくの。そして、その人が眠ってしまったら、明かりを取りだし、よく見るといいわ。もし大ヘビだったら、すぐに頭を切り落してしまいなさい。そうすれば、あなたは助かるんだから。」
プシュケは、なかなか聞きいれませんでしたが、やはり、お姉さんたちの言ったことが気になりました。それに、自分の好奇心も手つだって、もう我慢ができなくなってきました。そこで、あかりとナイフを用意して隠しておきました。そして夫が寝ついてしまうと、プシュケはそっと起きあがって、あかりを取りだしたのです。そこに照らしだされたのは、おそろしい化け物どころか、神神でも一ばん美しく、愛らしい、愛の神のエロスでした。プシュケは、嬉しくなって、その寝顔をもっとよく見ようと、明かりを近づけました。そのとき、あつい油が一滴、エロスの肩の上に落ちました。エロスは、それに驚いて、一言もいわずに、白いつばさをひろげると、窓から飛びだしていきました。プシュケもついていこうとしましたが、窓から地面に落ちてしまいました。プシュケが土ほこりの中に倒れているのを見ると、飛び去ろうとしていたエロスは、ちょっと飛ぶのをやめて
「おろかなプシュケよ。おまえは、わたしの愛に、こんな事をしてくれたのか。わたしは母の命令にそむいてまで、おまえを妻にしたのに、そのわたしを化け物だと思って、首を切る気かい。もう姉さんたちの所に帰るがいい。おまえには、あの人たちの言葉の方が、わたしの言葉より大事なのだから。わたしはおまえを罰しはしないが、永久にお別れだ。疑いのやどる心に、愛は住むことができない。」
こういうと、エロスは飛んでいってしまいました。とり残されたプシュケは、地面にたおれたまま、なげき悲しみました。すこし落ちついて、あたりを見まわすと、御殿は消えてしまって、自分は、姉さんたちの住んでいる町の近くの野原に座っていました。姉さんたちは、それをきいて気のどくそうな顔をしましたが、心のなかでは喜んでいました。
それからプシュケは夜も昼もさまよい歩いて、食べず、眠らずに、夫をさがしつづけたのです。ふと目をあげると、高い山の頂に、りっぱな神殿が立っています。プシュケは
「もしかしたら、わたしの夫は、あそこにいるかも知れない。」
といって、そこへ行ってみました。
神殿にはいると、山のように沢山の小麦がちらかっていました。穂をもいだもの、たばねたもの、大麦もまじっています。そして、カマや、熊手など、刈り入れの道具も、投げちらしてありました。
信心ぶかいプシュケは、このだらしのない神殿の中を、すっかり片づけました。小麦や大麦をよりわけ、それぞれの場所におきました。そこは、農業の神デメテールの神殿でした。デメテールはプシュケの信心ぶかい態度を見て、プシュケに言いました。
「プシュケよ。おまえは、可愛そうな者だ。わたしは、アプロディーテのご機嫌を損じているおまえを、助けてあげることはできないが、お怒りをとく、よい方法を教えてあげよう。アプロディーテの所へいって、ゆるしを乞うがよい。そして、おとなしく、女神のいうことを聞いて、許してもらうようにしてごらん。そうすれば、たぶんアプロディテもお心がとけて、おまえの失った夫を返してくださるだろう。」
プシュケはデメテールの仰せにしたがって、アプロディーテの神殿を探しました。自分の気持ちを励ましながら、どうやって女神のお怒りをといたらいいだろう、といろいろ考えましたが、とてもうまくゆくそうには思えません。アプロディーテは、怒った顔つきで、プシュケを迎えました。
「おまえは、ほんとに、けしからぬ女だ。」
とアプロディテはいいました。
「しかし、おまえもようやく、わたしを敬い、わたしに仕えなければならないことが、分かったのかね。それとも、おまえは夫に会いにきたのかい。あれは、かわいい妻のおかげで、ケガをさせられて、まだ寝ています。おまえは、いやらしい人間だから、うんと骨折仕事をしたうえでなければ、元通りに夫といっしょにさせることなどはできない。まず、おまえに家事むきの腕前を試すとしよう。」
女神は、プシュケに神殿の倉へゆくようにいいました。その倉の中には、女神のハトの餌にする、大麦や、小麦、キビや、エンドウ、インゲンマメや、レンズマメなど、山のように蓄えてられていました。
「この穀類をよりわけて、同じ種類のものを、ひとつの袋にまとめなさい。それを、日暮れまでに、しておおき。」
そういって、アプロディーテは出ていってしまいました。
プシュケはこの途方もない大仕事に、手もつけられず、ぼんやり、座っていました。
プシュケが途方にくれて、座っていると、エロスが、畑に住んでいるアリを、手伝いによこしてくれました。アリたちは穀物のつんであるところへゆき、せっせと、穀物を一粒一粒つかんでは、それぞれの袋によりわけてくれました。そして、仕事がすむと、あっというまに姿を消したのです。
夕方になって、アプロディーテは神々の宴会から帰ってきました。
見ると、仕事がちゃんと仕上がっています。
「うそつき娘め、これはおまえがした仕事じゃない。おまえに誘惑された、あれのしたことだろう。」
そういいながら、アプロディーテは、晩ごはんだけ与えて、行ってしまいました。あくる朝、アプロディテはプシュケをよんで来させて、言いました。
「ごらん。あの川の向こう岸に、森が見えるだろう。あそこに、沢山の羊が放し飼いになっている。その羊に、黄金の毛がはえている。行って、金の毛を集めてきておくれ。」
プシュケは、力のおよぶかぎり、命じられたことをやってみる覚悟で、おとなしく川岸へゆきました。すると、川の神が、ささやきました。
「お気のどくな娘さん。向こう岸のおそろしい牡羊の所へ行ったりしてはいけません。朝日がさしている間は、羊がすごく気が立っていて、鋭い角や歯で人間を殺そうとしますからね。お昼ごろになって、羊が日陰にはいると、川の精が子守歌をうたって、羊を寝かしつけてしまいます。そうすればもう大丈夫ですから、川を渡っていってごらんなさい。やぶや、木の幹に金の羊毛がくっついているでしょう。」
プシュケは、川の神の教えてくれた通りにしました。そしてまもなく、腕一杯の金の羊毛を抱えて、アプロディーテのところへ帰ってゆきました。けれども、執念ぶかい女神は、まだ「よろしい」とはいいません。
「これもおまえのした仕事ではないだろう。わたしには、ちゃんと分かっている。だから、おまえが役に立つ人間かどうか、これだけでは、まだわからない。もう一つやってごらん。さあ、この箱を持って、よみの国へ行って来ておくれ。そして、ペルセポネーに、この箱をわたして、こう言いなさい。『わたくしのご主人のアプロディーテは、お子さんの看病で少しおやつれになりましたから、あなたさまの美しさを少々、分けていただきたいそうでございます。』とね。途中ぐずぐずしないで、行ってきておくれ。わたしは今夜、神々や女神たちの宴会へ行く前に、その美しさでお化粧しなければならないんだから。」
プシュケは、よみの国へ行かなければならなくなったので、いよいよ命はないものと覚悟しました。それで、どうせ死ぬなら、ひと思いに死んでしまおうと思って、高い塔にのぼり、そこから身を投げることにしました。こうするのが、よみの国へいく、一番の近道だと思ったのです。すると、塔の中から声がして、プシュケに言いました。
「不幸せな娘よ。なぜ、死のうとするのです。いつも、ふしぎな力の助けをこうむったおまえが、最後の試みにくじけてしまうとは、卑怯ではないか。」
それからその声が、ほら穴を通ってよみの国へいく道を教えてくれました。また、どうすれば、途中の危険をさけることができるが、どうすれば地獄の門の番をしている、三つ頭のケルベロスのそばを通れるか、どうすれば三途の川を渡してもらえるかなど、こまごまと教えてくれたのです。そして最後に
「ペルセポネーが、美をいれた箱をくれたら、けっしてそれをあけて見てはいけない。いくら見たくとも、女神たちの美の秘密をのぞいてはならないのです。これが、なにより一番大切なことです。」と、くれぐれもと戒めました。
プシュケはこの言葉に励まされて、教えられた通りに旅をしてゆき、無事よみの国につきました。そして、ペルセポネーの宮殿につくと、さっそくアプロディーテからのことづてを伝えました。すると、貴い宝を入れた箱が、プシュケにわたされました。プシュケはそれを持って、もと来た道を帰りましたが、明るい日の光のさす所へ出たときには、ほっとしました。
けれど、この危ない仕事も、上手くいったと思うと、急に、箱の中のものが見たくてたまらなくなってきました。
「この神聖な美を運ぶお使いをするわたしが、ちょっとぐらいなら、それをもらったって、悪くはないだろう。わたしはそれを塗って、すこしでも夫に美しく思われるようにしよう。」
そう思ったプシュケは、そっと箱をあけました。そこに入っていたのは、美ではなくて、よみの国の深い眠りでした。とじこめられていた眠りは、箱があいたので、飛びだしてきて、プシュケに取りつきました。プシュケは道に倒れて、死んだようになって眠ったのです。
エロスは傷がよくなったので、愛するプシュケと離れていられなくなってきました。ちょうど自分の部屋の窓が開いていたので、そのから飛びたち、プシュケの倒れている所へきました。そして、プシュケの体に取りついている眠りを集めて、元通りに箱に閉じこめると、プシュケを起こしました。
「おまえはまた例の好奇心で、もう少しで死んでしまうところだったね。さあ、とにかくおかあさんにいいつけられた仕事を、ちゃんとしておしまい。あとは、わたしがいいようにしてあげるから。」それからエロスは、ゼウスの前に進み出て、プシュケと一緒になれるよう許しをこいました。ゼウスも、ふたりの為に熱心にアプロディーテを説得してくれたので、アプロディーテも、とうとう承知しました。そこで、ゼウスはヘルメスをつかわして、プシュケを、神々の集まっている天の広間へよびました。プシュケが来ると、ゼウスはアンブロシアという、神々の飲む酒をついだ杯を渡しました。
「プシュケよ、これを飲んで、不老不死の身となるがよい。ふたりともいつまでも仲よく暮らすがよい。」
こうして、プシュケは、ついにエロスの妻となったのです。