『薬物中毒とメタボリックシンドローム』でも書いた事だけど、コレステロール値、やっぱり“冠動脈硬化の進行”と関係なかった。今回の報告は、前回よりもっと強力で、HDL(善玉コレステロール)を強力に増やし、LDL(悪玉コレステロール)を強力に低下させたにも関わらず、血管内超音波検査では冠動脈硬化の退縮はもたらされなかったことが観察されてしまった・・・・という内容だ。
先般、動脈硬化学会がガイドラインを発表した所では、『コレステロール値を気にし過ぎるな!!』って事で、総コレステロール値だけで、スタチン系薬剤によるコレステロール低下療法開始すんなよ!!HDL 値と LDL 値を基準として投薬の目安にしろよ!!って事だったのだが、、、今回の報告は、これすら否定する結果となってしまった。
そして、この 24 ヵ月間の臨床試験では、コレステリルエステル転送蛋白阻害薬トルセトラピブにより、高比重リポ蛋白コレステロール値が大幅に上昇したにもかかわらず、、、、ってことと、トルセトラピブは血圧を上げちゃうんじゃないのか?って事もあって、この薬剤の研究プログラムはすべて中止されたんだってさ。
でも、この論文の考察では、HDL 上昇と LDL 低下させたにも関わらず、予想通りの結果が得られなかったのは、トルセトラピブに特有の有害作用があったからなんじゃないのか?って事で、締めくくってるんだけど、、、
動脈硬化は、ほぼ“遺伝子”で決まり、『コレステロール値は単なる結果で原因じゃない』って考察の方が自然だと思うんだけど、どうして出来ないんだろう??
冠動脈硬化の進行に対するトルセトラピブの効果Effect of Torcetrapib on the Progression of Coronary Atherosclerosis
S.E. Nissen and others
背 景
高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値は、心血管リスクと逆相関する。コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬トルセトラピブ(torcetrapib)は、HDL コレステロール値を上昇させるが、この逆相関のメカニズムと関連する機能的効果は依然不明である。
方 法冠動脈疾患の患者計 1,188 例に、血管内超音波検査を行った。低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値を 100 mg/dL(2.59 mmol/L)未満に低下させるためアトルバスタチンを投与した後、患者を、アトルバスタチン単独投与群またはアトルバスタチン+トルセトラピブ 60 mg/日投与群に無作為に割り付けた。24 ヵ月後、910 例(77%)に再び血管内超音波検査を行い、疾患の進行を判定した。
結 果24 ヵ月後、トルセトラピブ+アトルバスタチン投与により、アトルバスタチン単独投与と比べて、HDL コレステロールの約 61%の相対的上昇と、LDL コレステロールの 20%の相対的低下がみられ、LDL コレステロール 対 HDL コレステロールの比は 1.0 未満に達した。トルセトラピブは、収縮期血圧 4.6 mmHg の上昇とも関連した。アテローム量の比率(主要有効性評価項目)は、アトルバスタチン単独群では 0.19%上昇し、トルセトラピブ+アトルバスタチン群では 0.12%上昇した(P=0.72)。副次的評価項目である標準化したアテローム量の変化に関しては、トルセトラピブを支持するわずかな効果が示されたが(P=0.02)、もっとも重篤な病変部位ではアテローム量の変化に有意差はみられなかった。
結 論CETP 阻害薬トルセトラピブは、HDL コレステロールの大幅な上昇および LDL コレステロールの低下と関連していた。また、血圧の上昇とも関連しており、冠動脈硬化の進行に対する有意な抑制作用はみられなかった。こうした有効性の欠如には、この薬剤クラスの作用機序や、分子特異的な有害作用が関連している可能性がある。(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00134173)
(N Engl J Med 2007; 356 : 1304 - 16 : Original Article.)
(C)2007 Massachusetts Medical Society.
さて、この NEJM の論文を読んだ、貴殿の感想は??
結局、製薬メーカーの思惑に、マスコミや目立ちたい“オーソリティー”が、スタチン系薬剤には大した副作用も無い事をイイ事に、『コレステロール=悪。こいつを叩いて心筋梗塞を予防する事は、将来の医療費増大を抑止できる。だから、ジャンジャン使おう』って事を宣伝し捲ったから、誰一人として“コレステロール=悪”を疑わなくなったって事なんだろう。
でも、まてよ??
スタチン系薬剤が発売された時期と、コレステロール=悪のコンセンサスが得られた時期って一致してない。製薬メーカーがスタチン系薬剤の開発に着手した時を発売より溯って10~15年前だとしても合致しないし、スタチンの販売戦略の一環としてだって、今みたいに“病気の宣伝”が出来なかっただろうから、やりようも無い。
ということは、、、、
製薬メーカーやマスコミや目立ちたい“オーソリティー”は関係ないのかっ??
だとしたら考えられる事は、『原因を知る事で恐怖を克服したい』という集団心理なのだろうか?
死に直結する動脈硬化は、昔から恐れられていた。
そういう恐怖って、病気に関わらず、原因が解明されればその恐怖は対処の可否に関わらず緩和される。
そういう集団心理、それを迎え入れる素地が高まった所(時期)で、誰とはなしに“コレステロール=悪の大魔王”説が流布し、一般大衆もこぞって、これを受け入れた。
例えば、、、、
・家族性高コレステロール血症の患者では若年での動脈硬化を発症する。
・動脈硬化が原因で血管系疾患で死亡した人のコレステロール値が高かった。
これくらいの見かけの現象でさえ、当時では“コレステロール=悪の大魔王”のエビデンスとされてしまっても無理はなかっただろう。
あっ!!私、時期を特定しないまま、“時期”なんて言葉を使っているが、44歳の私でさえ、この業界に入る前から理由も知らないまま“コレステロール=悪の大魔王”だったから、かなり前から、ある程度の時間をかけて、ジワジワと浸透していった事なのかもしれない。
もし、可能なら、ヒトが生まれてからの食事を、コレステロール高含有食群と低含有食群、気にしないで何でも食べる群という3群に別けて、経過を観てみたい。
ふと、思い出したんだけど、学生時代、学術系の部活動の部長をしていた私は、うさぎ(日本白色種)を使って食事中のコレステロールの影響を調べる実験をやったっけ!
日本クレア(株)さんに、うさぎ用飼育飼料として3%コレステロール含有、3%コレステロール+βシトステロール(植物ステロール)、を作ってもらって、普通食で飼育する3群間の比較試験だ。うさぎが動脈硬化で死んでくれなかったので、結局、臓器中コレステロール濃度を測定して、健康への“害”と、植物ステロールを同時に摂取(野菜を食え!!)すると吸収されないと言う事を、発表の場である学園祭で、来てくれた一般の人にも訴えた。
まず最初に『コレステロール=悪者』の前提に立っていたわけで、臓器中コレステロール濃度が高い事が、健康に悪い事の検証もしてないのに、なんの疑いも無かった訳だ。そして、テーマを与えてくれた、公衆衛生学の教授だった顧問の先生も、何も言わなかったし。
そういう時代だったんだよなぁ!!なんか、急に思い出したら、顔が熱くなってきちゃった。恥ずかしい。
私は、スタチン系を“役立たず”と言っているわけじゃなくって、症例を選べって言いたいだけなんだけど・・・。でもなぁ、それが難しいんだよなぁ!いろんな意味でね。
嘘じゃないからね!!
そう、世の中、『嘘じゃない』ってのが、曲者なんだよな。