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2008年01月 アーカイブ

2008年01月05日

昆虫の浮気を防止する受容体

20080105_uwaki.jpg『浮気は男の甲斐性だ』なんて事を、きょうび、マジで言う愚か者はいないとは思うけど、本音では『それは当然だっ』って思っている男がいるとしら、『浮気は男の甲斐性だって事をマジて実践しているのは、人間と昆虫くらいなもんだよ』って事を知っておいた方がいいかもしれない。

昆虫の雄の蚊はその精液の中に、雌の蚊が浮気しないような物質を仕込んでいるのだそうだ。その物質を注入された雌は、雄の求愛行動を受け付けなくなって産卵を開始する準備を始めるのだとか・・・。

女は家にいて家事と育児に専念すべし・・・なんてことを考えているとしたらそれは古風どころか昆虫並に古いって事なのかもよ!

でも、それを“文化”と言うのなら、反論はできないけど・・・。あっ、別に女性の浮気を推奨しているわけじゃないよ。

生理:昆虫の浮気を防止する受容体

Nature vol.451 (7174), (3 Jan 2008)

ほとんどの昆虫では、雌は一度交尾を行うと生殖行動が大きく変化し、雄の求愛行動を受け付けなくなって産卵を開始する。

特にカの雌の場合は、交尾すると餌となる血を吸う相手を探し始める。

この変化の引き金となるのは雄の精液中に含まれる因子であり、ショウジョウバエ(Drosophila)のこの種の活性因子として、「性ペプチド」と呼ばれる小さなペプチドが1988年に発見された。

このペプチドに対する受容体は長らく探索されてきたが、今回、それが突き止められた。

この性ペプチド受容体は、リガンドが未知とされていたオーファン受容体CG16752であり、他の性関連行動に関連するとされている一群のニューロンで機能する。

この受容体は昆虫全般にわたって高度に保存されており、これによって、害虫の繁殖や感染症媒介昆虫の宿主探索行動を選択的に阻止できる可能性が出てきた。

Articles p.33


新年早々の Nature vol.451 (7174), (3 Jan 2008)のこんな論文が気になったのは、宮部みゆきの『RPG』を読み始めたからだ。昨年末、いろんなものを買いあさって散財してしまったので、通勤電車で読む本が買えなくなってしまい、女房の本棚にある本で面白そうなのを選んだというわけで、今ごろ、『RPG』なわけなのだが・・・・・。

前半部で殺された夫の女癖の悪さを諦め、ついに『まっ、しょうがないかっ』って境地に達してしまう妻の描写があるんだけど、私としては『えぇ~、それはないんじゃないのかなぁ。まぁ、経済的に不利益を被るから離婚はしないってのは理解できても、“女癖の悪さは病気だから”なんて、それって女性の脳で考えるには無理なんじゃないのぉ』って、今朝の通勤電車の中で思った。

感情と理屈を切り離せるのは、解剖学的にも女性には難しい。そんなに割り切って夫婦を演じられるなんて、そんな理想的な・・・・・馬鹿な!!!

雄が自分の“遺伝子”を少しでも多く残したい為に、数多くの雌と交尾するのは“本能”の為せる業で、雌の方でも自分の遺伝子を少しでも強い個体に残す為に数多くの雄と交わるのも“本能”の為せる業で、鳥類の雄などはそんな“間男”を追っ払う事に熱心なのだが、雌の方は雄がエサを取りにいっている間にちゃっかり間男と“やっている”という。あのチンパンジーでさえ、雌は複数の雄と交尾するのが普通だとか・・・。(雄は追っ払うんだろうけど)

人間の場合の交尾にはいろんな意味があるから、単純に動物と比較できないけど、お殿様じゃないんだから、お世継ぎを得る為に側室を持つ事を正当化出来る男は、そうそう、多くはないんじゃないか?

自分はすき放題やっているくせに、なんだかんだと“女房(や彼女)を支配下におく”事に熱心な男は少なくない。新橋あたりの安い飲み屋で女房の悪口を言ってるサラリーマンは強がっているだけかもしれないけど・・・。

『RPG』は上巻の1/4位しか読んでいないので、この妻の“性格”がストーリーの核になるのかどうかわかんないんだけど、もし、そうだとしたら、ちょっとずるいかなぁ!?(まぁ、最近は日本男児の脳の女性化が激しく、理屈で行動できない男も増えてるから、その分、女が男っぽくなっているのかも・・・?)


ところで、人間の男の精液の中にも蚊の精液にある「性ペプチド」があったら、どうなるんだろうか?あったとしても、女は男の浮気に無関心になる・・・なんて事ははならないような気もするけど・・・・・。

でも、この昆虫のシステムは、生存機能としては優れているんだろうなぁ。その証拠に、地球上で一番種類が多いのが昆虫だもんねぇ。

日本人が滅びる危機に直面したら、この昆虫のシステムを見習わないといけないのかも。

そう言えば、人類は TLR の存在を昆虫から教えてもらったんだよね。TLR と自然免疫の発展は切っても切り離せない。オーファン受容体CG16752 もその内、大ブレークするんだろうか???


というわけで、年始めのエントリーは、また“性”に関するものになってしまいました。『こんなプチエッチのばっかりかい?』って思われるのも本意ではないので、もう一つ紹介して終わろうと思います。

それは、、、、、前から気になっていた事でもあり、Q&A『ダウン症にガンが少ない理由』で、一応、自分なりには答えを出してるんだけど、さらに理解を助けるものとして目を引いた論文です。

医学:ダウン症候群が癌予防の道標に

Nature vol.451 (7174), (3 Jan 2008)

一部の疫学研究は、ダウン症候群の患者(第21染色体を3本もち、21トリソミーとして知られる)では固形腫瘍の発生率が低いことを示唆しているが、こうした知見が確認できないことも報告されている。

これらの相反する知見の謎が、ダウン症候群のマウスモデルで約100個の遺伝子がトリソミーとなっているTs65Dnを用いた実験によって解明できたようだ。

ヒト第21染色体の遺伝子群に相当するマウスの遺伝子群が、トリソミーつまり3コピーある場合には、腸腫瘍の一部の発生率が低下するが、同じ遺伝子群が1コピーだけ(モノソミー)の場合には、腫瘍の数が増加することが明らかになったのである。

この遺伝子量依存的な作用は、転写因子Ets2に起因すると考えられる。したがって、これまで癌遺伝子として知られてきたEts2は、腫瘍抑制因子としても働いており、癌を予防する薬物の標的となりそうだ。

Letters to Editor p.73

2008年01月23日

アグーチ・マウス

母親(妊婦)の栄養状態が子供の健康状態に影響する事は昔からわかっていたが、その因果関係まではわからなかった。だがここへきてはじめて、母親に栄養を補給する事により、子供の遺伝子そのものを変えることなく発現の仕方を恒久的に変えられる事が証明できた。
Dr Randy Jirtle of Duke University
20080123_epi_mouse.jpgラマルクの「獲得形質の遺伝」は、最近まで完膚なきまでに否定されてきたわけだが、2003年、デューク大学のランディ・ジャートル博士らによって、部分的に“復権?”されたのが、このアグーチ・マウスを使った実験によってだった。(もっとも“獲得形質”の定義も厳密にしないと騒動のもとだけどね。例えば、ピアニストは指の間がすごく広がるようになった。だからその子供も指が広く開く形質が遺伝して・・・ってのはないだろうね)

アグーチ・マウスってのはクリーム色の太っちょなマウスのことだ。この太っちょのオスとメスから生まれるのはアグーチ・ベイビー・・・・当たり前だけと、太っちょのマウスに育つ。

ランディ・ジャートル博士らはこの太っちょのツガイに“妊婦管理”を施した実験をした。対照は今までと同じ“エサ”で飼育したもの。“妊婦管理”を施した方にはこのエサに加え、ビタミンなどのサプリメントを加えたのだ

すると、驚く事に、太っちょのカップルから、茶色い痩せたベイビーが誕生したのだ。

今はこれがエピジェネティックな現象だと理解されている。エピジェネティックとは、遺伝子の変化を伴わない形質の遺伝の事だ。

サプリメントを与えられないメスのマウスに宿る胎児には、本来、メチル化され遺伝子発現が制御されるはずの遺伝子が、本来の形どおりにはならず、すなわち遺伝子が発現するように修飾を受け、それが“遺伝”していたというわけだ。妊娠マウスにとって、エネルギー面からは不足はなくても栄養面からは不足していた“普通のエサ”は将来の栄養的な危機を感知させ、脱メチル化という手段で遺伝的にも対応(迅速な進化)したものだと解釈されている。

このメチル化(インプリンティングとも呼ばれる)の起こる時期はかなり早く、着床前から着床後の限られた期間できまるという。そして、そのメチル化の修飾は生殖細胞を介して次世代に受け継がれる・・・と。(始原生殖細胞にもメチル化は及ぶそうなので、すでに孫の代まで影響を与えている事にもなる)アグーチ・マウスの場合、普通のエサで飼育されつづける限り、メチル化されない状態が遺伝されつづけたというわけだ。


今では、このエピジェネティックな制御は“遺伝”だけにとどまらず、がんをはじめ多くの病気の原因となっている事がわかってきている。(生殖細胞にメチル化の影響が及ばなきゃ、がんは遺伝しないけど・・・)


ただ・・・・・、

ちょっと前まで、『がんは遺伝子の変異によって起こる病気である』と定義されていた詳細が『がん遺伝子やがん抑制遺伝子の特定の塩基が置換したり欠損したり付加されたり重複したり・・・・』とそのシーケンスに変化が生じる事を本態としていた。

そう、遺伝子という定義そのものが、“染色体の特定領域の塩基の並び”だったからだ。

今、遺伝子の定義そのものが変わろうとしている。(っていうか、遺伝子を扱う分野の人にとっては、シーケンス=遺伝子ではなくなっていて、もっと広汎で捉えどころがなくってシステマティックなものだと。ジャンクはジャンクじゃなかったと。)

“遺伝子の定義”の変化にコンセンサスが得られれば、『がんは遺伝子の変異によって起こる病気である』という言葉も書き換えずに意味は通じるようになりそうであるが、現実には、シーケンスの変化がないのに遺伝子の変異・・・との理解は難しそうだ。

医療人のなかにも“遺伝子”のイメージが過去のままである人も多いし、一般の人にとっては、エピジェネティックなんて理解できるわけもない、、、、RNA の干渉現象なんて、遺伝子の発現の仕組みを知らなきゃ、説明のしようもないわけで、、、、、『遺伝子治療をしたのに、なんで治らないんだ(怒)』となるのは続きそうでもある。


薬物の催奇性でも、エピジェネティックな影響は見過ごせないだろう。でも、今、臨床の現場で説明して納得してもらえるのは、アメリカのFDA分類とオーストラリアのADEC分類の妊婦への薬剤投与情報くらいだろう。

健常妊婦の自然発生奇形などは、アグーチ・マウスじゃないけれど、妊婦の食・住環境によるエピジェネティックな影響だよと説明しても、理解は程遠い。

『飲酒・喫煙は胎児に影響を及ぼすよ』って“脅し文句”が根拠のない“脅し”じゃないんだと説明したくても、エピジェネティックな遺伝子発現制御をしてみたところで『・・・・・・で、?』となることは想像に難くない。(もっとも、理解出来なくても怖がってくれればOKなんだけど、最近はくだらない医療情報の氾濫で、自分で理解できない事はうさんくさいって思われかねないから、始末が悪い)


塩基配列に狂いが生じたなら『設計図が壊れた』という説明はし易い。

でも、今までの遺伝子の概念からは『設計図そのものは壊れてはないんだが』と説明せざるを得ない。『ならば、治す事は出来るんじゃないの?』って思われてしまう。遺伝子の概念自体が一般大衆まで最新のものに置き換われば、エピジェネティックな影響も含めて『遺伝子に変化がおきた』と言えるんだけどね。


さて、こんな事を朝の電車で考えていたわけだが、これは、【迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか】を読んだのと、ちょっと前に『これから、子供を作りたいんだけど、薬の影響は?』って、患者さんに質問された事によるんだと思う。

エピジェネティックな遺伝子の発現制御とエボデボの概念を取り入れた発生の仕組みは、一般の人に説明するには難しすぎて、その為、こっちも歯がゆい思いをしたせいなのだろう。FDA分類とADEC分類の危険度を参考に、通り一遍の説明はしたのだけど、自分の中では、なんか釈然としていないのだ。


ところで、エピジェネティックの“エピ”はギリシャ語の接頭語で「後から」とか「別の」という意味だ。

ギリシャ神話に登場するエピメテウスのエピと同じ意味で epi(後で)+ metheus (考える)で、「後悔する者」「後知恵」という意味で使われ、兄プロメテウスが「先に考える」「先見の明・熟慮する」という意味で、まさに、その名の通りのエピソードが神話にはある。(余談だけど、日本の政治家はエピメテウスしかいない。尤もそんなふうにさせてるのは、国民が原因だけど)


パンドラの箱のエピソードがそれだ。


だから、エピジェネティックな制御は予測不可能で、やってみなけりゃわからないし、出たとこ勝負って感じになっちゃうのかもしれない。

全てが“プロジェネティック”に制御出来るようになればいいんだろうけど、考えように拠っちゃ、わかんないから良いのかも知れない。

遺伝子は決められた運命には違いないけど、その運命は自分で変えられるってことだからね。(何をすればどう変わるのかは、まだわかってないけど・・・)よく、遺伝子診断で運命がわかると、後々、生命保険に入れないなんて事が言われたけど、それは近い将来、そんな事を悩む人はいなくるのだろう。

かわりに、自分の DNA シーケンスを知っても、将来の予測は不十分ってことにもなるんだけどね。『がん遺伝子、がん抑制遺伝子ともバリバリの正常です』なんて言われて安心してたらガンになっちゃったとかね。


(※最近、こんな話から民主党をこき下ろす話に発展しないのは、なんか怒るのにも疲れちゃって『もう、どうでもいいや!』ってなっちゃっているからだ。考えれば考えるほど、国民のバカさが見えてきちゃって、どうにもならないって感じているからなのだが、暫くすれば、また、皮肉を込めた刺々しい文章も復活すると思うけど・・・・。)

2008年01月29日

ポジティブな結果の抗うつ薬臨床試験が公表されやすいというバイアスが研究で見つかる

20080129_love_is_blind.jpgでも、これって抗うつ薬に限らず・・・だと思うんだよねぇ。

ネガティブな結果ももっと公表されるべきだって思ってるけど、実際は無理なのは解ってるから、前回、お仕事ブログで取り上げた『ENHANCE試験の結果は期待はずれ』もデータが公開された事自体を評価すべきだし、ある意味、臨床医学への貢献度はポジティブなデータなんぞより格段に優れているとも思うんだけどねぇ。


日経メディカルブログにて、アメリカで外科クリニカル・フェローとして臨床・研究に従事する高部氏の文章に『う~ん』とひざを叩いてしまったのは、氏が学生時代に講義で聞いた『腎不全と食事療法』の話だ。それは、、、講義した教授が駆け出しの頃の話で、当時、血中、尿中のアルブミンが測定できるようになり、腎機能低下による浮腫は蛋白尿による低蛋白血症が原因であることが分かった。そこで、当時は低蛋白血症を改善するため蛋白尿を上回るように高蛋白食の食事療法を行った。その結果、蛋白負荷がかかり、既に腎機能の低下していた患者さんたちは次々と腎不全に陥った。当時の技術と知識を用いて良かれと思って行った「治療」が、実は反対に患者さんに害を及ぼしていた、崖の端に立っていた患者さんたちを実は谷底へ突き落とすようなことをしていたんだという事実に気づいたとき、その教授は大変悔しい思いをされたという内容だ。

これは、直接論文の話とは関係ないけど、今現在の常識を盲信する事へ戒めで、名ばかりのエビデンスを闇雲に信用するなという教訓だと思う。


例えばコレステロールが真の"悪玉"ならば、臨床的な結果の差は歴然とするはずだ(放置すれば全員死亡)。でも実際は、差が出たとしても微々たるもの。最初からコレステロールを悪玉にするために統計学的に証明できるデータが取れるまでやるもんだから、ほんとは違うのに、なんだかんだとやっているうちに、取り敢えずは"都合の良い"結果が出るって具合で。

でもそれで、コレステロールが悪い事を証明できても、"どれくらい悪い"のかは、わからないわけで、例えば、刑事事件で『この人は有罪です』と言ったって、自転車泥棒で有罪なのか殺人で有罪なのかをはっきりさせなきゃ量刑は判断できないのと同じで、こんなエビデンスで薬物治療の適否は判断できないはずだと思うんだけど。。。。(殺人犯なら要治療だけど、自転車泥棒なら経過観察だよな)

エンドポイントを心血管系での死亡にして、5~6年も追跡して100人中3人が100人中2人に減ったから『33%の発症予防効果がある(mega study)』は事実だけど、その死亡の原因としてコレステロールは自転車泥棒並みの影響なのか、直接の殺人犯なのかは推して知るべしだろう。(100人中3人にとっては殺人犯だけど、100人中97人には害はないともいえる。この97人は薬を飲んでも飲まなくてもコレステロールの影響はない訳だから、この人達に薬を飲ませる行為は自転車泥棒に死刑を科すのと同じほど理不尽だ)

そして、その33%っていう統計学的な数字をもって、あたかも『100人中33人にとって殺人犯だ』みたいな誤解を"期待している"とすれば、それは限りなく"詭弁"に近いと思う。


巷でも業界でも、なんとはなしにコレステロールを"悪"にする理由は、コレステロール以外に犯人の目星がつかないからって事と、その昔、心血管系の病気を発症した人のコレステロール値が高かった事によりそれが原因だと思い込んだことが挙げられると思う。(だからコレステロール値を下げれば、病気なならなかった人と同じになれると考えたのだろう)でも、多分それは因果が逆で、心血管系の病気を発症するような遺伝子型(注)の人はコレステロールが高くなるってことなんだろう。世に出回っている数多くのエビデンスからも、そのような事が読み取れる。スタチン系が微々たるも発症予防効果があるのは、コレステロールを下げるからではなく、その他の効果だろう。エゼチミブにまるっきり効果がなかったことがそのことをエビデンスしているし・・・。

でも、だからといってコレステロール以外に容疑者がしぼれない現状では、『コレステロールはチンピラには違いないけど黒幕ではありませんでした』とは言えないしなぁ。。。。


ところで、『33%の発症予防効果がある』=『100人いたら33人が助かる』という誤解をメーカーが医療機関に期待している事が、医療機関が患者に対してって事態をも生んでしまう現行の医療制度にも問題があると感じている。

日本では(医療機関は)解っているけど経営のためにポジティブな臨床試験結果の誤解を利用する(薬を飲んでもらう)って側面が少なからずある(消極的営業か?)のだけど、前出の高部氏によると、アメリカでは少し事情が違うらしい。

アメリカの医学教育がカレントのコンセンサスを疑うことなく、それを全うする事に全力投球する臨床トレーニングをするところに問題があると指摘しているのだ。エビデンスを盲信して完璧に患者に適用する事を善しとしている事情が、アメリカでもエビデンスを欲しがる理由になっているのかもしれない。もっとも、アメリカじゃ自己流の医療をして失敗したら、日本とは桁違いに賠償金を要求されるからって理由もあるんだろうけど。。。ならば、エビデンスでは『抗うつ薬を飲んだ方がメリットがあるよ』って内容のほうが好まれるのは自明だ。『服用しても意味がない』ならまだしも『服用したら有害反応がある』ってエビデンスがいっぱいあったら、患者は黙っちゃいないからね。


さて、飲まなくても良い薬を飲まずにすませる為のエビデンスは、当然ながら、製薬メーカーから出てくるはずもないし、ましてや病気を治療できる治療薬を開発する事が"善"であるとの価値観の世界からは出る事はない。(善く解釈すれば、『病人を目の前にして、何もしないって選択は人道的に出来ない』って事なんだろうけど、、、病気でない状態をも病気扱いする今の風潮、例えば製薬メーカーのTVコマーシャルなどには違和感を感じる私にとって、その言葉は空しく響く)

では、現代の医療界で、飲まなくても良い薬を飲ませずに済ませることの出来る職種は存在するのか??

答えは『NO』だ。

病院に行かなければ薬を飲めとは言われない。でも、薬が必要かどうかを判断する人達は病院にいて、その人達の価値観は、常に治療する事にポジティブだ。だから、ほとんどのケースで『飲まなくても良い』とはならない。

バランスを取る為には、『薬を飲まなくても悪影響は無い』を目的とした大規模臨床試験が必要だと思うんだけど、もしやるとしても、一体、誰がやるんだろう?


政治の世界では、ちゃんと"野党"がいるんだけど、医療の世界では"野党"が不在だ。その昔、小児用バファリンを抗血栓薬としてこっそり使って既成事実を積み上げ、ついに陽の目をみたように、飲んでるフリしながら、ほとんど飲んでいない位のノンコンプライアンスの患者のデータを積み上げる・・・・・しかないのかなぁ。(医師が服薬していると信じて疑わず、経過観察している患者じゃないといけないからなぁ・・・・・)

その為には、ノンコンプライアンスを見て見ぬフリしなきゃ・・・・。


私的には、その役目は薬剤師が担うのがベストだと思うんだけど、現実には、絶対、無理だろうなぁ。。。。

と、NEJM とその解説を読んで感じた事でした。チャンチャン。

(って、もうお終いか?民主党の医療福祉分野の政策をこき下ろすネタはないのかぁ?? WebMaster's impressions にしちゃ、骨がないなぁ・・・・・と、お思いの皆様!今、私、ミトコンドリアの本を読んでいて、それどころではないのです。意味不明・・・)


(注)遺伝子の概念が私の中で変化してきている最近では、単に多型のような形で罹患傾向が掴めるとは、思えなくなってきた。膨大な遺伝子のネットワークを考慮しなくては、その表現形(罹患傾向)を掴む事は無理だろう。表現形が同じでも中身は違うだろうし、多型があっても表現形が同じ場合もあるだろうし・・・。

ちょっと前までは、NNT を1に近づけるように、治療効果と遺伝子系の関係を解明せよ!なんて簡単に言っていた事が最近では、ちょっと恥ずかしかったりしてます。

提供:Medscape

FDAに登録された12種類の抗うつ薬に関する臨床試験を対象にした研究で、ポジティブな結果に傾く公表バイアスが見つかった。

Marlene Busko


【1月17日】12種類の抗うつ薬に関する米食品医薬品局(FDA)に登録された臨床試験を対象にした研究で、ポジティブな結果に傾く公表バイアスが見つかった。FDAがポジティブと見なした試験はほぼすべてが公表された。FDAがネガティブまたは疑問が残ると見なした臨床試験はほとんどが公表されないか、中にはポジティブな転帰として公表されたものもあった。

12種類の薬剤のそれぞれについて、公表されなかったか、FDAによる判定が割れていたのにポジティブとして文献に報告された試験が少なくとも1本あった。

公表された文献で報告された抗うつ薬の(プラセボに対する)効果量は全体として、FDAのデータから導かれるこれらの薬剤の効果量より3分の1近く大きかった。

「臨床試験の結果を選別して報告することは、研究者、試験参加者、医療専門家、患者にとっては有害でありうる」と著者らは結論で述べている。

この知見は、『New England Journal of Medicine』1月17日号に掲載されている。


エビデンスに基づくのか、それとも偏ったエビデンスか?

「公表された文献からは、(これらの薬剤が)一貫して有効であるとの印象を持つかもしれない。しかし、今回の研究の結果は、それらは有効だが必ずしも一貫していないというものだった」と筆頭著者であるオレゴン健康科学大学(オレゴン州ポートランド)のEric H. Turner, MDがMedscape Psychiatryに語った。

「エビデンスに基づいた医療は、そのエビデンスが完璧かつ偏りがない場合に限り、価値を持つ」と同博士は言い、臨床試験が選別されて公表されていることは薬剤の見かけのリスク/ベネフィット比を変え、処方の決定に影響を与える可能性があると述べた。

今回の研究の目的は、公表された文献が薬剤の有効性についてどれだけ正確なデータを医学界に伝えているのかを調べることである。

研究チームは、FDAが1987年から2004年の間に認可した12種類の抗うつ薬に関する第2相と3相の臨床試験プログラムを特定した。対象となった成人患者数は12,564例であった。さらに、その試験の主要エンドポイントに関してFDAが下したポジティブかネガティブかの判断も調査した。

研究チームは体系的な文献検索と、その薬剤試験の資金提供者への連絡を行って、試験の公表との一致度を判定した。

すると、FDAに登録された抗うつ薬試験74本のうち、公表されなかった試験が23本(31%)あることが分かった。

74本の試験のうち38本(51%)はFDAがポジティブと見なし、そのうち37本が公表されている。

残りの36本(49%)の試験はネガティブ(24本)もしくは疑問が残る(12本)とされたものであった。これら36本のうち、公表されなかったものが22本、ポジティブとして公表されたものが11本、陰性として公表されたものが3本だった。


FDAに登録された抗うつ薬試験の公表状況

公表状況 試験数(%)
FDAの決定に一致する結果を公表 40 (54)
FDAの決定とは矛盾する結果を公表(ポジティブとして公表) 11 (15)
結果を公表せず 23 (31)
合計 74 (100)

公表された文献に基づくそれぞれの薬剤の効果量は、FDAのデータに基づく効果量よりも大きかった。その増加の幅は薬剤ごとで11%から69%の範囲であり、全体としては32%だった。

「発見されたこのバイアスの原因が、論文著者と資金提供者側の原稿提出ミス、掲載誌の編集委員と監修者が提出された原稿を公表しないとした判断、あるいはその両方にあるのかどうかについては判定できなかった。」

「いずれの薬剤も、メタアナリシスにかけるとプラセボよりも優位であった。その反面、それぞれの薬剤のプラセボに対する優位性の真の幅は、その文献で示されている入念な検討結果よりも小さかった」と研究チームは述べている。


ネガティブな結果ももっと公表されるべき

「今回の研究は、報告された薬物治療の効果の(公表バイアスの)実際の大きさを探る初めての作業のひとつである」と、ヴァーモント大学医学部(バーリントン)および米国精神医学会(APA)の全州代表委員であるDavid Fassler, MDがMedscape Psychiatryに対して語った。公表された文献はそれぞれの薬物治療や介入の有効性を過大評価しているか、リスクを過小評価しているならば、医師、研究者、一般公衆にとってそれは明らかに重大問題であると同博士は言い添えた。

同博士によると、この問題に対しては、精神医学の団体が先頭に立って対処してきている。2004年7月にAPAと米国児童精神医学会(AACAP)がこの問題に関して、全国規模の登録制度への呼びかけへ団体が参加をすることを促進するという解決案を米国医学会に提出した。

それを始めとするいろいろな取り組みの結果、今日では主要学術雑誌のほとんどが医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)が設けた方針に従っており、中央化されていて一般人も利用できて広く容認されている登録制度5種類のうち1種類に試験登録の前の段階から加入している試験に基づいた論文のみを扱うようになるだろうと、同博士は述べている。

さらなる歩みが必要である。「雑誌編集者は、きちんと設定されネガティブな結果が出た試験も、ポジティブな結果が出た同様の試験と同じ割合で受諾することを保証する必要がある」とFassler博士は言う。「臨床試験に携わった研究者は、自らの努力で得たデータを公表・提示する権利がある。医師、メディア、そして一般公衆も、適度な慎重さをもって新しい試験報告を読んだり解釈したりしなければならない。」


APAとAACAPが義務的登録の呼びかけを改訂

Turner博士らの報告に関して、APAとAACAPは声明の中で、臨床試験の義務的な一般登録制度の呼びかけを改訂し、臨床試験データを一般に公開させる連邦法への支持を繰り返し表明している。

「我々の患者は可能な中で最良の医療を受ける権利があり、研究データをポジティブであれネガティブであれすべて開示することは、臨床医がもっとも有効な治療計画を立てるのに役立つ」とAPA会長のCarolyn Robinowitz, MDがその声明の中で述べている。公表バイアスの問題は、精神科に限ったことではないとRobinowitz博士は言う。「公表バイアスは、心血管系薬や抗炎症薬でも盛んに報告されている。だからこそ、連邦政府によって設置・監視される臨床試験登録制度は医療すべてにとって有益である。」

AACAP会長のRobert L. Hendren, MDは、「臨床試験の過程の透明性、特に重要データの一般公開を高めることが、学術界、その分野の臨床家、そして患者にとってきわめて有益だ」と言っている。「全国規模の登録制度により、患者は、薬剤治療も含めたあらゆる治療選択肢のデータを入手して、主治医に相談することができるようになる。」

Turner博士はFDAの医学評論委員を務めている。本原稿にはその他に関係する利害関係は報告されていない。

N Engl J Med. 2008;358:252-60.

Medscape Medical News 2008. (C) 2008 Medscape

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