母親(妊婦)の栄養状態が子供の健康状態に影響する事は昔からわかっていたが、その因果関係まではわからなかった。だがここへきてはじめて、母親に栄養を補給する事により、子供の遺伝子そのものを変えることなく発現の仕方を恒久的に変えられる事が証明できた。Dr Randy Jirtle of Duke University
アグーチ・マウスってのはクリーム色の太っちょなマウスのことだ。この太っちょのオスとメスから生まれるのはアグーチ・ベイビー・・・・当たり前だけと、太っちょのマウスに育つ。
ランディ・ジャートル博士らはこの太っちょのツガイに“妊婦管理”を施した実験をした。対照は今までと同じ“エサ”で飼育したもの。“妊婦管理”を施した方にはこのエサに加え、ビタミンなどのサプリメントを加えたのだ
すると、驚く事に、太っちょのカップルから、茶色い痩せたベイビーが誕生したのだ。
今はこれがエピジェネティックな現象だと理解されている。エピジェネティックとは、遺伝子の変化を伴わない形質の遺伝の事だ。
サプリメントを与えられないメスのマウスに宿る胎児には、本来、メチル化され遺伝子発現が制御されるはずの遺伝子が、本来の形どおりにはならず、すなわち遺伝子が発現するように修飾を受け、それが“遺伝”していたというわけだ。妊娠マウスにとって、エネルギー面からは不足はなくても栄養面からは不足していた“普通のエサ”は将来の栄養的な危機を感知させ、脱メチル化という手段で遺伝的にも対応(迅速な進化)したものだと解釈されている。
このメチル化(インプリンティングとも呼ばれる)の起こる時期はかなり早く、着床前から着床後の限られた期間できまるという。そして、そのメチル化の修飾は生殖細胞を介して次世代に受け継がれる・・・と。(始原生殖細胞にもメチル化は及ぶそうなので、すでに孫の代まで影響を与えている事にもなる)アグーチ・マウスの場合、普通のエサで飼育されつづける限り、メチル化されない状態が遺伝されつづけたというわけだ。
今では、このエピジェネティックな制御は“遺伝”だけにとどまらず、がんをはじめ多くの病気の原因となっている事がわかってきている。(生殖細胞にメチル化の影響が及ばなきゃ、がんは遺伝しないけど・・・)
ただ・・・・・、
ちょっと前まで、『がんは遺伝子の変異によって起こる病気である』と定義されていた詳細が『がん遺伝子やがん抑制遺伝子の特定の塩基が置換したり欠損したり付加されたり重複したり・・・・』とそのシーケンスに変化が生じる事を本態としていた。
そう、遺伝子という定義そのものが、“染色体の特定領域の塩基の並び”だったからだ。
今、遺伝子の定義そのものが変わろうとしている。(っていうか、遺伝子を扱う分野の人にとっては、シーケンス=遺伝子ではなくなっていて、もっと広汎で捉えどころがなくってシステマティックなものだと。ジャンクはジャンクじゃなかったと。)
“遺伝子の定義”の変化にコンセンサスが得られれば、『がんは遺伝子の変異によって起こる病気である』という言葉も書き換えずに意味は通じるようになりそうであるが、現実には、シーケンスの変化がないのに遺伝子の変異・・・との理解は難しそうだ。
医療人のなかにも“遺伝子”のイメージが過去のままである人も多いし、一般の人にとっては、エピジェネティックなんて理解できるわけもない、、、、RNA の干渉現象なんて、遺伝子の発現の仕組みを知らなきゃ、説明のしようもないわけで、、、、、『遺伝子治療をしたのに、なんで治らないんだ(怒)』となるのは続きそうでもある。
薬物の催奇性でも、エピジェネティックな影響は見過ごせないだろう。でも、今、臨床の現場で説明して納得してもらえるのは、アメリカのFDA分類とオーストラリアのADEC分類の妊婦への薬剤投与情報くらいだろう。
健常妊婦の自然発生奇形などは、アグーチ・マウスじゃないけれど、妊婦の食・住環境によるエピジェネティックな影響だよと説明しても、理解は程遠い。
『飲酒・喫煙は胎児に影響を及ぼすよ』って“脅し文句”が根拠のない“脅し”じゃないんだと説明したくても、エピジェネティックな遺伝子発現制御をしてみたところで『・・・・・・で、?』となることは想像に難くない。(もっとも、理解出来なくても怖がってくれればOKなんだけど、最近はくだらない医療情報の氾濫で、自分で理解できない事はうさんくさいって思われかねないから、始末が悪い)
塩基配列に狂いが生じたなら『設計図が壊れた』という説明はし易い。
でも、今までの遺伝子の概念からは『設計図そのものは壊れてはないんだが』と説明せざるを得ない。『ならば、治す事は出来るんじゃないの?』って思われてしまう。遺伝子の概念自体が一般大衆まで最新のものに置き換われば、エピジェネティックな影響も含めて『遺伝子に変化がおきた』と言えるんだけどね。
さて、こんな事を朝の電車で考えていたわけだが、これは、【迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか】を読んだのと、ちょっと前に『これから、子供を作りたいんだけど、薬の影響は?』って、患者さんに質問された事によるんだと思う。
エピジェネティックな遺伝子の発現制御とエボデボの概念を取り入れた発生の仕組みは、一般の人に説明するには難しすぎて、その為、こっちも歯がゆい思いをしたせいなのだろう。FDA分類とADEC分類の危険度を参考に、通り一遍の説明はしたのだけど、自分の中では、なんか釈然としていないのだ。
ところで、エピジェネティックの“エピ”はギリシャ語の接頭語で「後から」とか「別の」という意味だ。
ギリシャ神話に登場するエピメテウスのエピと同じ意味で epi(後で)+ metheus (考える)で、「後悔する者」「後知恵」という意味で使われ、兄プロメテウスが「先に考える」「先見の明・熟慮する」という意味で、まさに、その名の通りのエピソードが神話にはある。(余談だけど、日本の政治家はエピメテウスしかいない。尤もそんなふうにさせてるのは、国民が原因だけど)
パンドラの箱のエピソードがそれだ。
だから、エピジェネティックな制御は予測不可能で、やってみなけりゃわからないし、出たとこ勝負って感じになっちゃうのかもしれない。
全てが“プロジェネティック”に制御出来るようになればいいんだろうけど、考えように拠っちゃ、わかんないから良いのかも知れない。
遺伝子は決められた運命には違いないけど、その運命は自分で変えられるってことだからね。(何をすればどう変わるのかは、まだわかってないけど・・・)よく、遺伝子診断で運命がわかると、後々、生命保険に入れないなんて事が言われたけど、それは近い将来、そんな事を悩む人はいなくるのだろう。
かわりに、自分の DNA シーケンスを知っても、将来の予測は不十分ってことにもなるんだけどね。『がん遺伝子、がん抑制遺伝子ともバリバリの正常です』なんて言われて安心してたらガンになっちゃったとかね。
(※最近、こんな話から民主党をこき下ろす話に発展しないのは、なんか怒るのにも疲れちゃって『もう、どうでもいいや!』ってなっちゃっているからだ。考えれば考えるほど、国民のバカさが見えてきちゃって、どうにもならないって感じているからなのだが、暫くすれば、また、皮肉を込めた刺々しい文章も復活すると思うけど・・・・。)