ネガティブな結果ももっと公表されるべきだって思ってるけど、実際は無理なのは解ってるから、前回、お仕事ブログで取り上げた『ENHANCE試験の結果は期待はずれ』もデータが公開された事自体を評価すべきだし、ある意味、臨床医学への貢献度はポジティブなデータなんぞより格段に優れているとも思うんだけどねぇ。
日経メディカルブログにて、アメリカで外科クリニカル・フェローとして臨床・研究に従事する高部氏の文章に『う~ん』とひざを叩いてしまったのは、氏が学生時代に講義で聞いた『腎不全と食事療法』の話だ。それは、、、講義した教授が駆け出しの頃の話で、当時、血中、尿中のアルブミンが測定できるようになり、腎機能低下による浮腫は蛋白尿による低蛋白血症が原因であることが分かった。そこで、当時は低蛋白血症を改善するため蛋白尿を上回るように高蛋白食の食事療法を行った。その結果、蛋白負荷がかかり、既に腎機能の低下していた患者さんたちは次々と腎不全に陥った。当時の技術と知識を用いて良かれと思って行った「治療」が、実は反対に患者さんに害を及ぼしていた、崖の端に立っていた患者さんたちを実は谷底へ突き落とすようなことをしていたんだという事実に気づいたとき、その教授は大変悔しい思いをされたという内容だ。
これは、直接論文の話とは関係ないけど、今現在の常識を盲信する事へ戒めで、名ばかりのエビデンスを闇雲に信用するなという教訓だと思う。
例えばコレステロールが真の"悪玉"ならば、臨床的な結果の差は歴然とするはずだ(放置すれば全員死亡)。でも実際は、差が出たとしても微々たるもの。最初からコレステロールを悪玉にするために統計学的に証明できるデータが取れるまでやるもんだから、ほんとは違うのに、なんだかんだとやっているうちに、取り敢えずは"都合の良い"結果が出るって具合で。
でもそれで、コレステロールが悪い事を証明できても、"どれくらい悪い"のかは、わからないわけで、例えば、刑事事件で『この人は有罪です』と言ったって、自転車泥棒で有罪なのか殺人で有罪なのかをはっきりさせなきゃ量刑は判断できないのと同じで、こんなエビデンスで薬物治療の適否は判断できないはずだと思うんだけど。。。。(殺人犯なら要治療だけど、自転車泥棒なら経過観察だよな)
エンドポイントを心血管系での死亡にして、5~6年も追跡して100人中3人が100人中2人に減ったから『33%の発症予防効果がある(mega study)』は事実だけど、その死亡の原因としてコレステロールは自転車泥棒並みの影響なのか、直接の殺人犯なのかは推して知るべしだろう。(100人中3人にとっては殺人犯だけど、100人中97人には害はないともいえる。この97人は薬を飲んでも飲まなくてもコレステロールの影響はない訳だから、この人達に薬を飲ませる行為は自転車泥棒に死刑を科すのと同じほど理不尽だ)
そして、その33%っていう統計学的な数字をもって、あたかも『100人中33人にとって殺人犯だ』みたいな誤解を"期待している"とすれば、それは限りなく"詭弁"に近いと思う。
巷でも業界でも、なんとはなしにコレステロールを"悪"にする理由は、コレステロール以外に犯人の目星がつかないからって事と、その昔、心血管系の病気を発症した人のコレステロール値が高かった事によりそれが原因だと思い込んだことが挙げられると思う。(だからコレステロール値を下げれば、病気なならなかった人と同じになれると考えたのだろう)でも、多分それは因果が逆で、心血管系の病気を発症するような遺伝子型(注)の人はコレステロールが高くなるってことなんだろう。世に出回っている数多くのエビデンスからも、そのような事が読み取れる。スタチン系が微々たるも発症予防効果があるのは、コレステロールを下げるからではなく、その他の効果だろう。エゼチミブにまるっきり効果がなかったことがそのことをエビデンスしているし・・・。
でも、だからといってコレステロール以外に容疑者がしぼれない現状では、『コレステロールはチンピラには違いないけど黒幕ではありませんでした』とは言えないしなぁ。。。。
ところで、『33%の発症予防効果がある』=『100人いたら33人が助かる』という誤解をメーカーが医療機関に期待している事が、医療機関が患者に対してって事態をも生んでしまう現行の医療制度にも問題があると感じている。
日本では(医療機関は)解っているけど経営のためにポジティブな臨床試験結果の誤解を利用する(薬を飲んでもらう)って側面が少なからずある(消極的営業か?)のだけど、前出の高部氏によると、アメリカでは少し事情が違うらしい。
アメリカの医学教育がカレントのコンセンサスを疑うことなく、それを全うする事に全力投球する臨床トレーニングをするところに問題があると指摘しているのだ。エビデンスを盲信して完璧に患者に適用する事を善しとしている事情が、アメリカでもエビデンスを欲しがる理由になっているのかもしれない。もっとも、アメリカじゃ自己流の医療をして失敗したら、日本とは桁違いに賠償金を要求されるからって理由もあるんだろうけど。。。ならば、エビデンスでは『抗うつ薬を飲んだ方がメリットがあるよ』って内容のほうが好まれるのは自明だ。『服用しても意味がない』ならまだしも『服用したら有害反応がある』ってエビデンスがいっぱいあったら、患者は黙っちゃいないからね。
さて、飲まなくても良い薬を飲まずにすませる為のエビデンスは、当然ながら、製薬メーカーから出てくるはずもないし、ましてや病気を治療できる治療薬を開発する事が"善"であるとの価値観の世界からは出る事はない。(善く解釈すれば、『病人を目の前にして、何もしないって選択は人道的に出来ない』って事なんだろうけど、、、病気でない状態をも病気扱いする今の風潮、例えば製薬メーカーのTVコマーシャルなどには違和感を感じる私にとって、その言葉は空しく響く)
では、現代の医療界で、飲まなくても良い薬を飲ませずに済ませることの出来る職種は存在するのか??
答えは『NO』だ。
病院に行かなければ薬を飲めとは言われない。でも、薬が必要かどうかを判断する人達は病院にいて、その人達の価値観は、常に治療する事にポジティブだ。だから、ほとんどのケースで『飲まなくても良い』とはならない。
バランスを取る為には、『薬を飲まなくても悪影響は無い』を目的とした大規模臨床試験が必要だと思うんだけど、もしやるとしても、一体、誰がやるんだろう?
政治の世界では、ちゃんと"野党"がいるんだけど、医療の世界では"野党"が不在だ。その昔、小児用バファリンを抗血栓薬としてこっそり使って既成事実を積み上げ、ついに陽の目をみたように、飲んでるフリしながら、ほとんど飲んでいない位のノンコンプライアンスの患者のデータを積み上げる・・・・・しかないのかなぁ。(医師が服薬していると信じて疑わず、経過観察している患者じゃないといけないからなぁ・・・・・)
その為には、ノンコンプライアンスを見て見ぬフリしなきゃ・・・・。
私的には、その役目は薬剤師が担うのがベストだと思うんだけど、現実には、絶対、無理だろうなぁ。。。。
と、NEJM とその解説を読んで感じた事でした。チャンチャン。
(って、もうお終いか?民主党の医療福祉分野の政策をこき下ろすネタはないのかぁ?? WebMaster's impressions にしちゃ、骨がないなぁ・・・・・と、お思いの皆様!今、私、ミトコンドリアの本を読んでいて、それどころではないのです。意味不明・・・)
(注)遺伝子の概念が私の中で変化してきている最近では、単に多型のような形で罹患傾向が掴めるとは、思えなくなってきた。膨大な遺伝子のネットワークを考慮しなくては、その表現形(罹患傾向)を掴む事は無理だろう。表現形が同じでも中身は違うだろうし、多型があっても表現形が同じ場合もあるだろうし・・・。
ちょっと前までは、NNT を1に近づけるように、治療効果と遺伝子系の関係を解明せよ!なんて簡単に言っていた事が最近では、ちょっと恥ずかしかったりしてます。
提供:MedscapeFDAに登録された12種類の抗うつ薬に関する臨床試験を対象にした研究で、ポジティブな結果に傾く公表バイアスが見つかった。
Marlene Busko
【1月17日】12種類の抗うつ薬に関する米食品医薬品局(FDA)に登録された臨床試験を対象にした研究で、ポジティブな結果に傾く公表バイアスが見つかった。FDAがポジティブと見なした試験はほぼすべてが公表された。FDAがネガティブまたは疑問が残ると見なした臨床試験はほとんどが公表されないか、中にはポジティブな転帰として公表されたものもあった。12種類の薬剤のそれぞれについて、公表されなかったか、FDAによる判定が割れていたのにポジティブとして文献に報告された試験が少なくとも1本あった。
公表された文献で報告された抗うつ薬の(プラセボに対する)効果量は全体として、FDAのデータから導かれるこれらの薬剤の効果量より3分の1近く大きかった。
「臨床試験の結果を選別して報告することは、研究者、試験参加者、医療専門家、患者にとっては有害でありうる」と著者らは結論で述べている。
この知見は、『New England Journal of Medicine』1月17日号に掲載されている。
エビデンスに基づくのか、それとも偏ったエビデンスか?「公表された文献からは、(これらの薬剤が)一貫して有効であるとの印象を持つかもしれない。しかし、今回の研究の結果は、それらは有効だが必ずしも一貫していないというものだった」と筆頭著者であるオレゴン健康科学大学(オレゴン州ポートランド)のEric H. Turner, MDがMedscape Psychiatryに語った。
「エビデンスに基づいた医療は、そのエビデンスが完璧かつ偏りがない場合に限り、価値を持つ」と同博士は言い、臨床試験が選別されて公表されていることは薬剤の見かけのリスク/ベネフィット比を変え、処方の決定に影響を与える可能性があると述べた。
今回の研究の目的は、公表された文献が薬剤の有効性についてどれだけ正確なデータを医学界に伝えているのかを調べることである。
研究チームは、FDAが1987年から2004年の間に認可した12種類の抗うつ薬に関する第2相と3相の臨床試験プログラムを特定した。対象となった成人患者数は12,564例であった。さらに、その試験の主要エンドポイントに関してFDAが下したポジティブかネガティブかの判断も調査した。
研究チームは体系的な文献検索と、その薬剤試験の資金提供者への連絡を行って、試験の公表との一致度を判定した。
すると、FDAに登録された抗うつ薬試験74本のうち、公表されなかった試験が23本(31%)あることが分かった。
74本の試験のうち38本(51%)はFDAがポジティブと見なし、そのうち37本が公表されている。
残りの36本(49%)の試験はネガティブ(24本)もしくは疑問が残る(12本)とされたものであった。これら36本のうち、公表されなかったものが22本、ポジティブとして公表されたものが11本、陰性として公表されたものが3本だった。
FDAに登録された抗うつ薬試験の公表状況
公表状況 試験数(%) FDAの決定に一致する結果を公表 40 (54) FDAの決定とは矛盾する結果を公表(ポジティブとして公表) 11 (15) 結果を公表せず 23 (31) 合計 74 (100) 公表された文献に基づくそれぞれの薬剤の効果量は、FDAのデータに基づく効果量よりも大きかった。その増加の幅は薬剤ごとで11%から69%の範囲であり、全体としては32%だった。
「発見されたこのバイアスの原因が、論文著者と資金提供者側の原稿提出ミス、掲載誌の編集委員と監修者が提出された原稿を公表しないとした判断、あるいはその両方にあるのかどうかについては判定できなかった。」
「いずれの薬剤も、メタアナリシスにかけるとプラセボよりも優位であった。その反面、それぞれの薬剤のプラセボに対する優位性の真の幅は、その文献で示されている入念な検討結果よりも小さかった」と研究チームは述べている。
ネガティブな結果ももっと公表されるべき「今回の研究は、報告された薬物治療の効果の(公表バイアスの)実際の大きさを探る初めての作業のひとつである」と、ヴァーモント大学医学部(バーリントン)および米国精神医学会(APA)の全州代表委員であるDavid Fassler, MDがMedscape Psychiatryに対して語った。公表された文献はそれぞれの薬物治療や介入の有効性を過大評価しているか、リスクを過小評価しているならば、医師、研究者、一般公衆にとってそれは明らかに重大問題であると同博士は言い添えた。
同博士によると、この問題に対しては、精神医学の団体が先頭に立って対処してきている。2004年7月にAPAと米国児童精神医学会(AACAP)がこの問題に関して、全国規模の登録制度への呼びかけへ団体が参加をすることを促進するという解決案を米国医学会に提出した。
それを始めとするいろいろな取り組みの結果、今日では主要学術雑誌のほとんどが医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)が設けた方針に従っており、中央化されていて一般人も利用できて広く容認されている登録制度5種類のうち1種類に試験登録の前の段階から加入している試験に基づいた論文のみを扱うようになるだろうと、同博士は述べている。
さらなる歩みが必要である。「雑誌編集者は、きちんと設定されネガティブな結果が出た試験も、ポジティブな結果が出た同様の試験と同じ割合で受諾することを保証する必要がある」とFassler博士は言う。「臨床試験に携わった研究者は、自らの努力で得たデータを公表・提示する権利がある。医師、メディア、そして一般公衆も、適度な慎重さをもって新しい試験報告を読んだり解釈したりしなければならない。」
APAとAACAPが義務的登録の呼びかけを改訂Turner博士らの報告に関して、APAとAACAPは声明の中で、臨床試験の義務的な一般登録制度の呼びかけを改訂し、臨床試験データを一般に公開させる連邦法への支持を繰り返し表明している。
「我々の患者は可能な中で最良の医療を受ける権利があり、研究データをポジティブであれネガティブであれすべて開示することは、臨床医がもっとも有効な治療計画を立てるのに役立つ」とAPA会長のCarolyn Robinowitz, MDがその声明の中で述べている。公表バイアスの問題は、精神科に限ったことではないとRobinowitz博士は言う。「公表バイアスは、心血管系薬や抗炎症薬でも盛んに報告されている。だからこそ、連邦政府によって設置・監視される臨床試験登録制度は医療すべてにとって有益である。」
AACAP会長のRobert L. Hendren, MDは、「臨床試験の過程の透明性、特に重要データの一般公開を高めることが、学術界、その分野の臨床家、そして患者にとってきわめて有益だ」と言っている。「全国規模の登録制度により、患者は、薬剤治療も含めたあらゆる治療選択肢のデータを入手して、主治医に相談することができるようになる。」
Turner博士はFDAの医学評論委員を務めている。本原稿にはその他に関係する利害関係は報告されていない。
N Engl J Med. 2008;358:252-60.
Medscape Medical News 2008. (C) 2008 Medscape