LDLコレステロールは本当に悪玉? 少な過ぎると死亡率上昇
とうとう、一般紙にもこういう事が書かれるようになった。大変、良い事である。
ともすれば、『LDLコレステロールは悪玉だから・・・』ってことで、体の中の"悪"は存在を許さないみたいな内容の記事になりがちだった昔からすれば、コレステロール値を盾に治療をすることにも、一般紙も疑問を呈し始めた事は、賞賛に値する。
しかし、一般紙と言えども、抗生物質の使い方にはかなり昔から警鐘を鳴らしていたはずだ。それでも、いまだに消費量が減っているという実感はない。
---そもそも、"関心"が希薄なんだよなぁ---
新聞に書いてあっても、読みゃしないのだ。つい先日も、『成人の鼻副鼻腔炎、抗菌薬投与は不要?抗菌薬が有効だと判断できる徴候や症状は見付からず』なんて記事が、Lancet誌2008年3月15日号に掲載されている(スイスBasel大学病院のJim Young氏ら)。
こんな報告が掲載されるくらいだから、どこの国でも事情は大差ないのかもしれない。かつてイギリスでは国をあげてキャンペーンをはったわけだが、現状はどうなってるんだろうか??
記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社【2008年3月29日】
LDLコレステロール:本当に悪玉? 少な過ぎると死亡率上昇??メタボ基準の一つ脳卒中や心筋梗塞(こうそく)の発症の危険性を高める「悪玉」とされるLDLコレステロールは、低いほど死亡率が高まることが、大櫛陽一・東海大教授(医療統計学)らの疫学調査で分かった。LDL値の高さは、4月から始まる特定健診・保健指導(メタボ健診)でも、メタボか否かを判断する基準の一つで、悪玉という位置づけの是非が議論になりそうだ。【大場あい】
大櫛教授らは、神奈川県伊勢原市で87~06年に2回以上住民健診を受けた約2万6000人を平均8・1年追跡。LDL値ごとに7群に分け、死亡率や死因との関係を調べた。
全死因合計の「総死亡率」でみると、男女とも、最もLDL値が低い群(血液1デシリットル中79ミリグラム以下)が一番死亡率が高い。男性では年間死亡率が人口10万人あたり約3400人と、死亡率が最も低い群(140潤オ159ミリグラム)の約1・6倍。女性も人口10万人あたり約1900人で、死亡率が最も低い群(120~139ミリグラム)の約1・3倍だった。
脳卒中や心筋梗塞など心血管疾患による死亡率に限ると、男性では180ミリグラム以上になると死亡率が上昇したが、女性はほとんど関係ない。男女ともLDL値が低いと、がんや呼吸器疾患による死亡が増え、全体の死亡率が高くなった。
大櫛教授はLDL値の適正範囲を「男性100~180ミリグラム、女性120ミリグラム以上」と提案。メタボ健診の基準では、LDL値が120ミリグラム以上の人は下げることを勧めているが、大櫛教授は「適切な範囲にあるLDL値を下げ過ぎる危険がある。コレステロールは人体に必須の物質で、少ないと免疫機能が低下するため、死亡率が上がるのではないか」と話している。
【ENHANCE試験の結果は期待はずれ】【家族性高コレステロール血症に対するシンバスタチン+エゼチミブ併用療法とシンバスタチン単独療法の比較】と、最近、たて続けに発表される試験結果が、のきなみ『コレステロールを下げるだけに意味は無い』って事をうけてか、この"エゼチミブ"を売っているメーカーは巧い理屈を編み出した。
それは、、、
『もともと質の悪い(酸化)コレステロールを体内に取り込むのを防ぐ効果があります』だ。
コレステロールの6~8割は体内で作られ、2~4割が食事から取り込まれる。そして、"悪玉"と呼んでいるコレステロールは、どちらにしても体内で変化したものだ。
イメージ的に、体内で変化したものは"悪玉"とはいっても、それが、工業的に・・とか化学的に・・変化して質が悪くなったものと比べれば、なんとなく"自然でやさしい"。
そこに着目して、今の悪玉より、更にイメージの悪い"質の悪い"コレステロールを体内に取り込まないって理屈は、感情に訴えてくる。文学的に言えば、いわゆるレトリックだ。
話は変わるが、『天災は忘れた頃にやって来る』の寺田寅彦が夏目漱石に質問したそうだ。
『俳句とは、なんですか?』
それに答えて、漱石曰く
『究極のレトリックである』と。
このレトリックは、広告代理店が考えたものじゃないだろう。広告代理店なら、『どんな薬かを考えても、どこの薬かを考えた事はありますか?』みたいに抽象的になるはずだ。具体的なイメージを膨らませられるレトリックは、開発あたりに携わっている人によるのだろう。
この人たちの文学的な修辞法に、ある意味、感心してしまったのだ。
医療の現場で、患者さんへの説明は、レトリックである。うすうすは気づいてはいた私は、最近、このことを確信した。
寺田寅彦は初期の作品で、『書きたい事の3割しか書かないようにした』としているように、読者の想像力を膨らませて、後を引くようなスタイルを実践していたのだそうだ。
患者さんへの説明にも、共通するところがある。
何から何まで、懇切丁寧に(情報の洪水を浴びせるように)するよりは、ちょっと足りないくらいに端折ってすると、『じゃ、こういう時には?』と聞き返して来る。関心を持たせる事ができ、理解が深まるのだ。
ただ、レトリックは用いる人間に悪意があれば、それは"ミスリード"になる。
ってゆーか、現代では"レトリック"という言葉にあまり良い印象は無い。"ミスリード"の目的でテクニックを行使してきた誰かさんのおかげだな。。。。
さて、いつもいつも書いてる事なんだけど、生活習慣病の予防や治療は、ほんとに"個の医療"である。
引用部の《大櫛教授は「適切な範囲にあるLDL値を下げ過ぎる危険がある。コレステロールは人体に必須の物質で、少ないと免疫機能が低下するため、死亡率が上がるのではないか」と話している。》は、大櫛教授自身、"適切な範囲にあるLDL値を"の前に『(その人の)』を挿入したかったんじゃないのかなぁ。
『その人の至適値ってわかるんですか?』って突っ込まれたら、チト、まずいけど。