RNA は DNA の特定の領域(遺伝子)が転写されて、核内から細胞質へ移動し、蛋白質を作る情報の媒体として機能する。
これは、高校で習うことだ。
このような蛋白質を作る情報の媒体となるものを、特に mRNA と呼んでいる。通常、RNA は転写されて直ぐに核外へ移動するため、RNA を標識して(顕微鏡で見えるようにする為、色を付ける)分布を調べると、核の部分には何も見えず、ちょうどドーナツの穴のように見える。
今まで知られていた RNA では全てこのドナーナツの穴のように見えていたため、RNA は転写されると、すぐに核の外に移動するもんだ!!という事が常識となっていた。
しかし、最近発見されたある種の RNA は核外へ移行せず、核内に留まり、何かをしているらしい・・・。この RNA に注目してみると、ドーナツの穴はあいてない・・・・・。発見された当初は、かなりの衝撃・・・・・だっだ。
ところで、つい最近まで、DNA 上の蛋白質に翻訳される部分、すなわち遺伝子は全塩基の2%に過ぎないため、残りの塩基配列は存在自体が意味の無い、すなわちガラクタ(ジャンク)だと思われていた。
ところが、2005年、理化学研究所の林崎らにより、DNA の全体の、ななな、なんと、70%にも及ぶ領域が転写されていたことが解明された。
転写されるってことは、DNA → RNA と RNA が生成されるわけだが、これらのほとんどが蛋白質の設計図とならない、いわゆる“ノンコーディング RNA (ncRNA)”として存在することが明らかにされたのだ。さらにこの ncRNA の中には、機能を持つものも含まれていて・・・・。
miRNA などがその代表で、エピジェネティックな遺伝子発現制御を担っていたり、、、、
今現在わかっている RNA で核内に留まるものは4つ知られているのだという。
核内に留まるんだから、mRNA として機能するわけもなく、まだ、その実態は闇の中とのとこだが、その4つの中の一つ、Gomafu と名付けられた核内 RNA の研究がブレークスルーになりそうな気配を漂わせている。。。。
Gomafu は“ゴマフ”と発音する。
核内に居残る Gomafu の分布を顕微鏡で見た時の印象(ドーナツの穴の部分の模様)がゴマフアザラシの模様に見えたところから、Gomafu と発見者の中川により命名されたそうだ。
この研究がブレークスルー・・・・というのは、実は Gomafu は別のグループにも発見されていて、MIAT (ミアット) と命名されていた。
MIAT は、その1塩基置換により心筋梗塞発症率が上昇する遺伝子として同定されていたのだ。もちろん、その転写物 (RNA) が、核内に留まるということはわかっていなかったのだが・・・・。
つまり、“心筋梗塞発症率が上昇する”という表現形が、その遺伝子が核内にあって影響を及ぼしているということなのだ。
蛋白質の機能として心筋梗塞発症率に影響するわけじゃない・・・・(翻訳は核外)
miRNA として mRNA の翻訳段階で影響を与えているわけじゃない・・・・(miRNAとして機能するには核外)
一体、どのようにして影響を与えているのか・・・・?
ここ何回かのエントリーは小説『坂の上の雲』をネタにしている。この本は海軍連合艦隊の参謀として活躍した秋山真之とその兄で陸軍の騎兵隊を指揮した秋山好古、それに同郷の正岡子規を主人公にした物語だ。
最近、この小説が、私の脳内を占拠している。。。。なにかあると、この時代のこれらの登場人物の役割みたいなものを、生命科学に登場するキャラクターに置き換えて思考遊戯を楽しんでいるのだ。
東郷平八郎がゲノム(遺伝子を含む)とすれば、旗艦の艦橋はさしずめ“核内”で、参謀の秋山真之は、核内にあって、表現型に影響を及ぼす ncRNA 、miRNA は前線の佐官級将校 かなぁ・・・・・なんてね。
秋山真之の影響力とその意思・情報・命令の伝達は明らかにされているのだが、Gomafu の場合はどうやっているのか、皆目見当も付かない・・・・。
サイエンスが“核心”に迫ると、その実験は美しくなり、自然現象を表現する“式”はシンプルに美しくなる(と表現する人がいる。私には難しすぎて美しいのかどうか、よくわからないが・・・。『世界でもっとも美しい10の科学実験』は何だか美しそうだけど・・・)。
物理や化学の世界では、どうやら、それは正しいことのようだ。しかし、生物学では、“核”に迫れば迫るほど、どんどん、複雑に混沌としてくる。
生物学では、物理や化学のように混沌から抜け出せるのだろうか???