スリットラック遺伝子は、理研の有賀らが発見した ZIC 遺伝子に発現制御を受ける。
ZIC 遺伝子は、脳の形成に必須の遺伝子だ。まず、発生期に平たい神経板が作られ、それが、管のよう丸まって神経管と呼ばれる構造を作るのだが、その時、最初に中央が閉じられ、その後、ジッパーのように閉じていき、管として完成するのだそうだ。(ヨックモックのロールクッキーのようなもんだろう。あれは、何重にも巻かれているけど、一重ってことで)
この神経管が先端が次第に成長して脳が形成される。
この ZIC 遺伝子の制御を受けて、スリットラック遺伝子が発動し、細胞膜の内外を貫通する蛋白を作り出す。
2005年、米国の研究グループが、ヒトやマウスにある6つのSLITRK遺伝子のうち、SLITRK1遺伝子がトゥレット症候群と関係がある事を突き止めた。
オリヴァー サックスの著書『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』では、トゥレット症候群の外科医が登場する。私は、この本でトゥレット症候群という病気を始めて知った。この病気は、チックのような、踊るような、、、知らない人が見ると、思わず目を逸らしてしまいそうな不随意の運動発作を起こすのだそうだ。驚いたのは、普段は、頻回に発作を起こすのに、手術中はピタリと止まり、また、この医師は飛行機の操縦免許を有してるのだが、飛行中は発作が出現しないのだそうだ。
日本では保険適応は無いが、トゥレット症候群にはカタプレス錠を治療薬として使う。
カタプレス錠すなわちクロニジンは、私の学生時代の薬理学の教科書にも掲載されている程の古典的な薬である。ちなみに私の教科書も、この辺は手垢で真っ黒になっている。。。にも関わらず、詳細な機序は記載されていない。ただ、『中枢性の降圧薬』なんて丸暗記の世界だ。
イミダゾリン系の薬剤に分類されるが、未だに、詳細な機序は不明とされている。同系統のチザニジンや、市販の点鼻薬に血管収縮薬として配合される成分の仲間だが、他は使われないみたいだから、効果をあげている機序は、不明なのかも知れない。もっとも、中枢のα2受容体を刺激するから、ノルアドレナリンの分泌は抑制されるのだが、これが発作を抑制しているのかどうか・・・・イミダゾリン受容体の効果なのか・・・・。
気になったので、調べてみると、、、、
チザニジンの筋弛緩および痛覚作用におけるイミダゾリン受容体の関与の有無を調べ、運動系および痛覚系におけるイミダゾリン受容体の役割を明らかにする為に、ラット脊髄反射電位を測定しチザニジンの反射抑制作用におけるイミダゾリン受容体の関与を研究した報告があった。
クロニジンは脳幹部のα2アドレナリン受容体へ働き血圧降下作用を示すが、α2受容体以外の受容体、すなわちイミダゾリン受容体へも結合することが明らかとなっている。イミダゾリン類であるチザニジンは中枢性の筋弛緩作用と鎮痛作用を示し、臨床では抗痙縮薬として用いられており、その作用機序は中枢のα2アドレナリン受容体への作用と考えられてきた。
チザニジンはラット(Wistar)において筋弛緩作用を示したが、この筋弛緩作用はα2アドレナリン受容体に選択的な拮抗薬ヨヒンビンによっては影響されず、α2とイミダゾリン受容体に結合する拮抗薬であるイダゾキサンにより抑制された。
マウス(ddy)においてはチザニジンは鎮痛作用は示すが筋弛緩は生じないとされていた。
そこで、5種類のマウス系統を用いて、チザニジンが筋弛緩作用を示す系を探索した。その結果、C57BLにおいて、チザニジンの筋弛緩作用が認められたが、この作用はヨヒンビンとイダゾキサンにより拮抗された。従って、ラットにおけるチザニジンの筋弛緩作用にはにはイミダゾリン受容体が関与することが示唆された。
熱および圧刺激に対する侵害受容閾値はクロニジンにより上昇した。熱刺激に対する鎮痛作用はα2アドレナリン受容体に選択的なヨヒンビンによって部分的に拮抗され、α2アドレナリンおよびイミダゾリン受容体に親和性を示すイダゾキサンとエファロキサンにより完全に拮抗された。
イミダゾリン受容体サブタイプはI1、I2、I3が存在するが、エファロキサンはI1受容体、イダゾキサンはI2受容体への親和性が高いと報告されている。エファロキサンはイダゾキサンよりも強い拮抗作用を示した。圧刺激に対する鎮痛作用はヨヒンビン、イダゾキサン、エファロキサンのいずれによっても拮抗された。
したがって、マウスの熱侵害に対するクロニジンの鎮痛作用にはα2アドレナリン受容体に加えてイミダゾリン受容体が関与することが示された。
ということで、筋弛緩作用と鎮痛作用には違う受容体が関与しているようだが、不随意の筋収縮が、どのような神経路に混線しているのかすら、私には良くわからないので、調べてみたものの、結局は、よくわからん・・・・・と言うことになってしまった。
まぁ、学生時代、駆け出し時代(初心者時代)の頃とは違って、人間の体、、、というか、生き物の体の仕組みの複雑さは、十分すぎるほどわかってきたし、1つの薬は、100~1000の遺伝子を動かす作用のあることもわかってきたので、明快な機序はわからなくても、あまり気にはならなくなっているのだが、薬剤師としてはなんかクヤシイ。
理研ニュース3月号を読んでいて、ふと、オリヴァー サックス書『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』を思い出してしまい、キーボードを叩いたエントリーでした。この本が読みたくなった人は、ここをクリックして買ってくだされ。