世の中の至る所に転がっている話?
一般的な概念からすると、全体を考える上でその一つの要素と見られるものは、簡単に考えがちだ。要素は単純な方が都合が良いから、そういう思い込みもあるだろう。
このような考え方に警告を鳴らす論説が掲載されている。まず、ご覧頂きたい。(例によって、トピックスにも収載したので、後日、本家のリンクが切れた後は、こちらを利用してくだされ。)
免疫療法:そんなに先を急がないで... Lesley Cunliffe腫瘍反応性T細胞をin vitroで活性化および拡大してから患者の体内に戻す養子細胞移植療法(ACT)は、転移性充実性腫瘍に対する臨床反応をなんとか上手く誘導できる数少ない癌免疫療法のひとつである。ACTが特に魅力的なのは、特異的T細胞を、その機能的特性により選択した上で患者に移植できる点である。しかし、T細胞分化のどの段階が、in vivoでの腫瘍の治療奏効に関わっているかは十分に検討されておらず、現在のT細胞選択基準ではin vivoでの有効性が保証されない。
Gattinoniらは、CD8+ T細胞の機能を種々分化段階(ナイーブ、初期エフェクター、中期エフェクターおよびエフェクター)で分析し、これが腫瘍退縮をメディエートするT細胞の能力に影響を及ぼすかどうかを、マウスモデルを用いて明らかにしている。それによりGattinoniらは、高度に分化したエフェクターT細胞は、in vitroで最も効果的な抗腫瘍作用を備えているが、in vivoでの効果は、ようやく初期エフェクター段階に達したT細胞の100分の1であることを突き止めたのだ。実際、診療所で使用するT細胞の選択に現在用いられている特徴(インターフェロン 放出とin vitro細胞毒性)は、in vivoでの抗腫瘍有効性と負の相関関係にある。
マイクロアレイ分析を実施したところ、高分化T細胞ほどBID、BADおよびFASリガンドといった向アポトーシス分子をコードする遺伝子や、複製老化を引き起こす遺伝子の発現レベルが高かったことから、こうした細胞がin vivoであまり「フィット」しないことが明らかになった。しかも、移植したT細胞のin vivoでの増殖能は実際、in vitroでの抗腫瘍機能を漸次獲得するごとに低下する。
初期エフェクターT細胞を分析したところ、CD26Lマーカー(CD62Lhigh)を高レベルで発現し、外見は対になるCD62Llowと類似しているものの抗原接種後にすぐれた抗腫瘍効果を示す亜集団が特定された。CD62Lhigh細胞は優先的にリンパ節に戻り、このマーカーが移植されたT細胞に、接種の結果として腫瘍抗原を発現しているプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)を狙わせることが、分析から明らかになった。T細胞分化によりCD62Lが消失すると、APCとの相互作用が損なわれ、T細胞のin vivoでの活性化および増殖が弱まることによって、抗腫瘍活性が抑制される。
以上のことから、リンパ節ホーミング分子の発現レベルが高い初期エフェクターT細胞が、ACTに用いるT細胞として最良のものということになる。しかし、臨床的に治療効果のある細胞数を得るのに必要なin vitroでのT細胞拡大の段階では、必ず分化およびこの重要な細胞マーカーの消失が引き起こされる。目下、T細胞増殖の誘導にはインターロイキン2 (IL-2)が用いられているが、IL-2は分化をも誘導する。しかし、Gattinoniらは、IL-15が分化と増殖とを引き離して大量のT細胞を産生することでCD62Lが保持されやすくなり、ACTで用いた場合の効果が著明に大きくなることを明らかにしている。
以上の所見は、臨床治療法としてACTをさらに開発するのにきわめて重要となる。しかもGattinoniらは、現在のT細胞選択基準を、分化度が低く効果の高いT細胞を選択するものに改める必要があると提案している。
ご用とお急ぎの方の為に、簡単に説明すると(簡単だから誤解される可能性が有るので、道筋が見えたら、原典を必ず見くだされ)、がんを治療する方法の一つに、免疫力を高める方法がある。その免疫力の指標を試験管の中で調べた結果は、実際の体の中での実際の効果と一致しない。そればかりか、反比例するというものだ。

私達は、日常生活で、気軽に“免疫”という言葉を使っている。
人それぞれにイメージする“免疫”があるのだろう。
そして、その“免疫力”と言う言葉を使うシーンは、ほとんどの人の場合、健康に付いての会話の中でである。
『あの○○は、免疫力を高めるから、健康に良いのよ』と。全体(健康)を考える上での一つの要素(免疫)として扱っている。
理屈は、単純明解で整然としている。反論の余地はない・・・・ように見える。
しかし、この「免疫力が高まる」という現象が、実は単純な指標では計れないものだとしたら・・・・、反論の余地は十分に残されていると言えるだろう。
たとえば、怪しい“キノコ”の免疫力増強を詠って、少数の“ガンに効いた”症例を裏付ける為に、実験によるデータを添付して、科学的ても尤もらしく説明しているサイトや広告を見かけるが、こんな、実験だけで、トータルの表現形としての免疫を証明出来るものではない事を、この論説は証明している。
私は、免疫学をライフワークとしているが、免疫学は、理解が深まれば深かまるほど、結果が予測出来なくなる。逆に、結果を見れば、その道筋は簡単に説明できるだが・・・。
免疫は、主人公が一人、二人の単純なストーリーではなく、それこそギリシャ神話に登場する神々のように数多くの主役が織り成す、壮大なスケールの物語なのだ。トロイア戦争が起こった原因を考える時、ゼウス陰謀で、諍いの神エリスがテテュスとペレウスの結婚式にリンゴを投げ込む事まで考えなきゃならないのと同じだ。パリスが誰が一番の美女かを選ぶ事が、自分の父親を(知らずに)殺すに至る事、絶世の美女ヘレネと恋に落ちる事(戦争の直接の引鉄)を、一連の繋がりと考える事も出来るし、独立した事象と考える事も出来る。
目に見える形での出来事でさえ、結果に与える因果を証明する事も難しいのに、分子や細胞と言った目に見えない世界で起こる結果の因果を証明するのに、ごく一部(試験管の中での一つの化学物質“サイトカイン”など)だけに注目して、結果を云々するほどナンセンスな事は無い。
免疫現象は、健康の一部の指標ではなく、生命の根幹を担う“システム”なのである。
であるから、一部の現象を、しかも、体から切り離された試験管での結果が、システム全体としての表現形を予測するには、土台、無理が有るのだ。(一般の方には、『免疫の意味論』と『生命の意味論』多田 富雄 著を読まれる事を御勧めする。)
しかし、現実の世の中では、たった一言“免疫”で事は済んでしまう。専門じゃ無い人、一般の人はそんなもんかもしれない。(だから、騙されるとも言えるのだが・・・)
まぁ、こんな話は、業種・業界を越えて、世の中の至る所に転がっているのかもしれない。
私にとっては、インチキ健康情報を、一刀両断にする頼もしいツールを手に入れたようなもんだから、素直に嬉しいのだが・・・。
p.s.フロイトは歴史的事実を程程に受け入れつつ、モーゼの行動をその精神的な面から解釈し、彼をユダヤ人ではなくエジプト人であるとした大胆な仮説を『モーセと一神教』の中で唱えている。もしかしたら、これが事実かもしれない。
人は、あまりにも、当たり前の事として事実を見せられると、新しい発想が出来なくなってしまう。また、それを拒否する。
だから、なまじ、色んな事を知らない方が、真実に近づけるという考えも有る。
でも、この『事実として眼球で確かに見ている』・・・・と言った事さえ、オリヴァー・サックスの「火星の人類学者」を読んでいると信じられなくなる。
一体、どうしたらいいのだろう?
結局、人間の智慧なんて浅知恵で、どうでも良いのかもしれない。
